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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

同じ町の夢を何年も見続けていたけど、最近そこに突然ショッピングモールが新設された

かれこれ30年近く同じ町の夢を見続けているのだが……

その友人は毎日3つ以上の夢を見て、どれも目が覚めた時にきちんと記憶しているのだそうだ。毎晩が夢の3本立て。私なら疲れ果ててしまいそうだ。

3つの夢の内容はそれぞれ違ってバリエーションに富んでいるそうなのだが、その中のひとつに継続的に見るものがあるという。初めてその夢を見たのは中学生の時で、友人が40代となった今もその夢は繰り返されている。
かれこれ30年近くに渡って継続している夢だというのだ。

その夢の中で、気づくと友人はいつも同じ町にいる。最初にその町を訪れて以降は「あ、久しぶりにこの町に来たな」とすぐに気づく。夢の中で「いつもの町だ」と知りながら、その町を散歩するのだそうだ。

町には商店街があるが、自分以外の通行人は見かけたことがない。しかし寂しい感じはせず、むしろ明るい雰囲気を感じる町だという。
この町に来た時の友人の楽しみはCD屋をめぐることだ。商店街の中ほどにある古本屋にはCDコーナーがあり、商店街を通り過ぎると現れる高架下にはCD専門店がある。そこからまたしばらく行った先の雑居ビルの2階にもCDショップがあり、自転車に乗って10分ほど走った先には地下フロアまである大型の古本屋があり、そこにもやはりCDコーナーがある。

それぞれの店で売られているCDの品揃えは異なっていて、商店街の古本屋では中古CDが、高架下の専門店は新譜ばかりが売られている。ビルの中にあるCD専門店はレア盤を多く扱っていて、そこに行くのが一番の楽しみだ。並んでいる商品は現実の世界にもあるもので、たまに「おおっ!」と思う珍しい中古版が手ごろな値付けで売られているのを見つけて、テンションが上がったりすることもある。

しかしお店の中にも自分以外の人の気配はなく、実際に商品をレジまで運んでいって会計をしたことはない。それでも、品揃えと値段をチェックするだけで十分に楽しい。CDショップ以外にも、雑居ビルの1階にあるゲームショップで古いファミコンソフトを探したり、2階にあるパソコンショップに入ったりすることもある。

念のためもう一度書いておくが、これらはすべて夢の中の話なのである。

掘り出し物を発見するのはやっぱりうれしい!……夢の中とはいえ
掘り出し物を発見するのはやっぱりうれしい!……夢の中とはいえ

ここにきて、夢の中の町に進化のような変化が始まってきた

友人はこのような夢を年に数回のペースでずっと見続けてきたのだが、最近になってその町の様子に変化が現れた。いつも通っていた商店街の古本屋が閉店してしまっていたのである。夢の中でのことではあるが、20年以上も通ってきた店が潰れてしまったらしいことを知り、友人はショックを受けた。

次に同じ町の夢を見た時、「もしかしたらこの前のあれは勘違いかもしれない」と思って商店街に確かめに行ったが、やはり古本屋のシャッターは降りたままだった。そしてそのかわり、高架下の先に巨大なショッピングモールがオープンしていることを発見して驚いた。どうやら夢の中にも時代の変化の波が押し寄せているらしいのだ。

夢の町に出現した近代的なショッピングモール
夢の町に出現した近代的なショッピングモール

そういえば大型古本店のCDコーナーはここ数年どんどん販売スペースが小さくなっていて、「CDがなかなか売れない時代だもんな」と感じていた。新しくできたショッピングモールの中にも足を踏み入れてみたが、現実のショッピングモールと同じように、どこか紋切り型でありふれた印象を受けた。
古びた味わいのある町が好きな友人にとっては寂しい変化である。

昔は3か月に一度ぐらいの頻度でその町の夢を見てきたが、近頃はそのペースが徐々に落ちてきたように感じられるとも友人は言う。春ごろに一度見たきりでもう今年も終わりに近づいてきている。
もしかしたらいつかその町に来ることもなくなるのかもしれない。そればっかりはどうしようもないけど、できればたまには遊びに来て、変わっていく町の様子を確かめてみたいと友人は思っている。

(了)

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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