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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」
ふとした会話が、表情が、何気ない何かがずっと頭に残って離れない……そこで湧き上がる気持ちをスズキナオさんはこう表現することにした。「むう」と。この世の片隅で生まれる、驚愕とも感動とも感銘ともまったく縁遠い「むう」な話たち。

この世に猫を溺愛する人は数知れず。今回は、ツンデレの元祖ともいうべき猫に振り回される人間の姿に「むう」と唸ったお話。

噛まれても引っ掻かれても見下されても…どうして猫は可愛いままなのか

木の上で震えていた白い子猫のモモは……めちゃくちゃ気が強かった……

中学生の頃、わが家に白い猫がやってきた。
夏休み中で、近所の公園に父と二人の妹と一緒にラジオ体操をしにいき、体操を終えた帰り道、頭上からか細い鳴き声が聞こえた。「ん? 多々なんで上から?」と思ってよくよく見上げてみると、子猫が木の上から降りられなくなって鳴いているらしいのだ。勢いでそこまで登ったはいいものの、高さを感じて怖気づいたのかもしれなかった。

妹たちが口々に「かわいそう、助けてあげて」「ねえ、お父さん、お願い」と言う。父は「えー」と面倒くさがりながらも園内にあった児童館から脚立を借りてきて木に登り、どうにかこうにか子猫をつかまえたのだった。今考えれば父はよくやったものだ。

父の手の中の子猫は、思ったよりもずっと小さく、生まれてからそれほど経っていないように見えた。体のほとんどが白い毛で覆われ、耳の先と尻尾だけが茶色かった。ミャーミャーと小さく鳴き続けており、周囲を探し回っても親猫らしき姿は見当たらない。「牛乳を飲ませてあげた方がいいよ!」「エサもあげようよ!」と妹たちが言って、とりあえず家に連れ帰って保護することにした。

ただ佇むその姿はひたすら愛らしい
ただ佇むその姿はひたすら愛らしい

母は「情が移ったら飼わなきゃいけなくなるよ」と消極的だったが、まさにその母こそが真っ先にその猫に愛着を覚え、献身的に世話をし続けた。猫はすぐに母になつき、生後一ヶ月ほどだったと思われるその頃からわが家の猫として19年間も生き、天寿をまっとうした。

「モモ」と名付けられたその猫について真っ先に思い起こされるのは並外れた気の強さである。
ちょっとでも気に食わないことがあると猛烈に怒る。家族の中でも私は特に下に見られていたのだろうか、噛まれたり引っ掻かれたりは日常茶飯事だった。

家に私の友達が遊びに来ると廊下の陰からいきなり飛び出してきて足首に噛みついたりして、「お前の家にいるとジャングルみたいで気が抜けないよ」と苦笑いされたりした。

そのくせ、甘えてくる時には打って変わった様子でゴロゴロとすり寄ってきて、それがまた可愛いのだ。後になって「ツンデレ」という言葉をテレビか何かで初めて目にした時、モモのことを思い出すことでその概念がすんなり理解できたほどである。

そんなモモのことを久々にじっくりと思い返す機会が先日あった。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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