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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」
たまたま居酒屋で隣あわせた人と話が弾み、そのまま連絡先も交換せずに別れた。
電車の向かい側に座った人をずっと眺めていた。
一期一会といえばそれまでだけど、その時の会話が、表情が、何気ない何かがずっと頭に残って離れない……
スズキナオさんの毎日はそんなモノで溢れている。そこで湧き上がる気持ちを彼はこう表現することにした。
「むう」と。この世の片隅で生まれる、驚愕とも感動とも感銘ともまったく縁遠い「むう」な話。

仲良しの同僚が聞かせてくれる楽しい話がいつも大好きで。
ところが彼の面白ネタを他の人にも話してみたところ……?

同僚が聞かせてくれた面白ネタを他の人にも話したら発覚した衝撃の事実

自分が老婆の買い物袋をぶちまけたのに、謝るどころか怒りをぶつける男

もう10年以上も前のことなのだが、ふとした拍子に思い出しては「あれは一体何だったんだろう」と不思議な気持ちになる話がある。

当時勤めていた会社の同僚と、仕事帰りに目黒の町を歩いていた。美味しいと評判のラーメン店があり、二人してそこに食べに行った後、腹ごなしにとあてもなく散歩していたのだった。

歩きながら同僚が「そういえば前にここら辺でさ」と、ちょうどその時歩いている場所の近くで過去に体験したというエピソードを語り始めた。

ある時、同僚が通りを歩いていると、向こうの方から老婆がやってきたという。両手に大きなレジ袋を持ち、重たそうにしてゆっくり歩いている。レジ袋には肉やら野菜やら、スーパーで買ってきたらしき食材がたくさん詰まっているようだった。

するとそこへ反対側から、いかにも威圧感のある、ちょっとヤンチャな雰囲気の若い男性が肩で風を切るようにして歩いてきた。それほど道幅の広い通りではなかったのもあって、すれ違いざま、老婆の持つレジ袋の片方に若い男性の体がドーンとぶつかってしまった。

車も通れる裏路地は幅があるようで狭いものだ
車も通れる裏路地は幅があるようで狭いものだ

そこに登場したのは正義の味方……はたまた……

老婆はよろめき、レジ袋からは食材が道に転がり落ちた。
すると若い男性は声を荒げるようにして「おい! 何してくれんだよ。痛えだろうが!」と老婆に詰め寄った。オロオロする老婆に対し、男性の怒りは収まらない様子である。「なんだか面倒なことになりそうだ……」と、同僚は嫌な予感を抱きつつ、それを見守ることしかできなかったという。

その時、どこからともなくスーツ姿の男性がスッと現れ、老婆に怒りをぶつけているヤンチャな雰囲気の男性の肩を掴んだ。
「あん? 何、お前?」とヤンチャ男性。

するとスーツ姿の男性は「拾えよ」と、道に転がった野菜を指差して言ったのだった。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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