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なぜ女子中学生はコンパスの針と墨汁で自身に刺青を彫ったのか──タトゥーを入れた女と消した女

「切り取った皮膚がほしいから買わせてほしい!」

玲奈がタトゥーを入れる前の年、15歳の彼女は父親がネットで探した相手に初めて身体を開いた。そして、父はその金で外食に行き、彼女にはシャンプーなどの日用品を買ってきた。
経済的に豊かではない暮らしと思うように動かない身体が彼女の父親をそうさせた。まだ子供だった玲奈が身体を売って得た金銭を渡すと父は喜んで出かけて行ったという。
心の強い痛みによって感情が麻痺することで生きることができた当時の玲奈は、タトゥーをなんらかの覚悟によって入れたわけではない。思春期にそんな経験をした彼女にとって、タトゥーを入れることは大したことではなかった。
「彫り師に勧められた中で一番可愛いと思った」。
それが彫ることを決めた牡丹の花だった。

だがタトゥーを消すことは入れたときとはまるで違って、相当な覚悟を要するものだった。
痛み、ダウンタイムの時間、傷跡、手術のための高いお金など、消さない理由はいくらでも思いつく。
それでもタトゥーを消そうと決めたのは、元彼との間に子供を授かったことだった。

風俗で働いていた当時付き合っていた貿易会社の社員との間に子供ができた。だが彼は玲奈と結婚するつもりはなく、子供の中絶を望んだ。
玲奈は「風俗以外の仕事をするから結婚して産みたい」と彼に掛け合ったが、彼は「どうせタトゥーの女なんて風俗しかできない」と冷たく玲奈を突き放した。
その言葉に涙が出るほどの腹立たしさを覚えたが、就職したことがなかったため言い返すことができなかった。
彼女は彼と別れて子供を諦めたが、もう二度とそのような気持ちを味わわないためにタトゥーを消して就職し、全力で仕事に取り組み始めた。

玲奈は風俗で出会い仲良くなった客に
「背中のタトゥーを消すために皮を切り取ることにした」
と話すと、客は
「切り取った皮膚がほしいから買わせてほしい!」
と玲奈に懇願した。何に使うのか聞くと
「皮膚を焼いて食べてみたい」
と言うため、面白半分で10万円で売ることにした。

しかし執刀医に皮膚が欲しい旨を伝えると
「医療廃棄物だからなぁ……」
と難色を示される。医療廃棄物は、文字通り廃棄しなくてはならない。
玲奈は諦めずに「亡くなった家族との思い出がある」と執刀医を説得して無事に皮を手に入れた。

だがそれは既にホルマリン漬けにされた状態になっていた。
ホルマリンは毒物として体内に蓄積されるため食べることはできない(人間の皮膚も倫理的には食べることはできないはずなのだが)。
客は10万円で買ったホルマリン漬けの皮を焼肉にすることを諦めたが、代わりにその皮に付着していた皮脂を使ってランプに火を灯した。
その火力で、玲奈と一緒にスーパーで買ってきた肉を焼いて、焼肉を楽しんだ。

記事が続きます

「ファンキーなおばあちゃん」になるためにまだまだ増やしてもいい

「美味しかった?自分の皮脂で焼いたお肉は」
「お肉はお肉だよ。いつ食べても美味しい」
「そりゃそうか。私もいつかタトゥーを消したくなったりするのかな」
「私の傷跡を見た後にも新しく彫ってるんだから、ならないんじゃない」

玲奈はしばらく開いていなかったスマホのチェックに気を取られながら答える。
毎月会うほど頻繁ではないのに、会えば毎週一緒にいるかもしれないと錯覚するほど自然で、過剰なパフォーマンスをせずに会話ができる関係は居心地が良い。

これから先、私もライフステージの変化によって堂々と肌を出すことができなくなる日が来るのかもしれないし、或いはタトゥーを入れたことを後悔する日が来るのかもしれない。
一方で憧れの「ファンキーなおばあちゃん」になるためにまだまだ増やしてもいいという気持ちもある。

何をするにも自分の責任が伴う。
それならば思う存分、右往左往して選択したいと思う。

 次回連載第3回は4/2(火)公開予定です。

記事が続きます

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新刊紹介

かとうゆうか

1993年生まれ。マーダーミステリー作家。シナリオを担当したマーダーミステリーに「償いのベストセラー」「無秩序あるいは冒涜的な嵐」「ザ キャリーオン ショウ」などがある。共著に「本当に欲しかったものは、もう Twitter文学アンソロジー」。

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