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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場

【文豪と仲人】太宰治が淡い恋心を抱いた石井桃子と、仲を取り持つならはっきりしてほしい井伏鱒二のお話

なぜか太宰の死後に思いを伝える井伏先生に返す桃子さんの言葉がお見事

その数か月後、井伏鱒二と会った桃子さんが当時のことを『太宰さん』で振り返っています。

『それから、井伏さんは、ひょっと、「太宰君、あなたがすきでしたね。」と、おっしゃった。私は、いまでもよくおぼえているのだけれど、「はァ」と笑うような、不キンシン な声をだしてしまった。そして、びっくりしたまま、「それを言ってくださればよかった のに。私なら、太宰さん殺しませんよ。」と言った。』

桃子さんはさらに「このことばは、私が、太宰さんをすきとかきらいとかいうこととは、まったくべつで、一つの生命が惜しまれてならなかったのだけれど、私は、それを井伏さんによく説明することができなかった。」と太宰に対して特別な感情はなかったかのように続けます。

一方、井伏鱒二の『をんなごころ』にも同じ場面のことが書かれており、井伏視点によると、桃子さんは終始顔を赤らめていた。といった内容が記されています。

桃子さんと井伏先生、どちらが正しいのか今となっては知るすべもありませんが、もしも太宰と桃子さんとのあいだで友人以上の心の交流があったとしたら、少なくとも太宰はあのような死に方はしなかったのかもしれません。

「会ってくれなければ自殺する」という太宰からの手紙を受けとってから、二十年近くにわたる交遊の思い出や、井伏による太宰の作品解説を精選集成。『太宰治』(井伏鱒二・中公文庫)
「会ってくれなければ自殺する」という太宰からの手紙を受けとってから、二十年近くにわたる交遊の思い出や、井伏による太宰の作品解説を精選集成。『太宰治』(井伏鱒二・中公文庫)
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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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