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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場
「文豪」というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
いつも気難しそうな顔をしてて、メガネかけてヒゲなんか生やしてて、伊豆あたりの温泉旅館の一室で吸い殻山盛りの灰皿を脇目に、難しい小説なんか書いてる…。そんなイメージを持たれがちな彼らですが、実は現代人とたいして変わらないような、実に人間臭い面もたくさんあるのです。

さて、今回は児童雑誌の草分け的存在でもある『赤い鳥』の創始者、鈴木三重吉先生の意外すぎる素顔。児童雑誌を創刊したからといって子供好きとは限らない……?

【文豪と児童】騒ぐ子供は箪笥にしまっておけ、といったほど子供嫌いの鈴木三重吉が児童雑誌『赤い鳥』を創刊したわけ

児童雑誌『赤い鳥』創刊秘話。漱石門下随一の酒乱で子供ぎらいだった鈴木三重吉が児童雑誌を創刊したわけとは?

鈴木三重吉(すずき・みえきち)
1882年9月29日 – 1936年6月27日
小説家、児童文学作家。広島県出身。東京大学英文科卒。東大在学中から夏目漱石に私淑。1906年に書いた小説『千鳥』を漱石の推薦で『ホトトギス』に発表し、作家として踏みだす。1918年に児童雑誌『赤い鳥』を創刊。童話、童謡を芸術として向上させ児童文学史上に大きな功績を残した。

24歳の時に書いた小説『千鳥』が「僕、名作を得たり」と夏目漱石に言わせるほどの高い評価を得て文壇デビューを果たした鈴木三重吉は、のちに「芸術として鑑賞するに耐えうる児童文学」を標榜する児童雑誌『赤い鳥』を創刊し、児童文学界の推進に大きな功績を残した作家でもあります。

「子供の純性を保全開発するために、現代第一流の芸術家の真摯なる努力を集め、兼て、若き子供のための創作家の出現を迎ふる、一大区画的運動の先駆である」と創刊号に記された『赤い鳥』には錚々たる執筆陣が集まり、北原白秋、森鷗外、芥川龍之介、泉鏡花、有島武郎、徳田秋声、室生犀星、菊池寛、久米正雄、小川未明、島崎藤村、佐藤春夫、井伏鱒二、谷崎潤一郎などなど、文豪オールスターとも言うべきメンバーが寄稿しています。

高尚な理念の元にこの豪華な執筆陣を集め、子供たちの純粋な感性を育む教育の一環としての児童雑誌を創刊した鈴木三重吉先生ですが、いかに人望厚い人物かと思いきや、三重吉を良く知る方々が残した証言を見る限り、どうもそうでもないようなのです。

1918年『赤い鳥』創刊号。レトロポップな佇まいは今見てもオシャレ。当時の定価は18銭(画像所蔵/広島市立中央図書館)
1918年『赤い鳥』創刊号。レトロポップな佇まいは今見てもオシャレ。当時の定価は18銭(画像所蔵/広島市立中央図書館)

恩師への礼を尽くしながらも、ひとたびお酒をば召し上がると……

漱石門下の中でも最古参の一人である三重吉について語った、漱石夫人の鏡子さんの証言によると「(鈴木さんは)やさしい人で、私の事でもよく気を付けてくれました。(中略)他からもらったメロンです、ボクが食べるのはもったいないから奥さんに上げますなどと、よく何か持って来てくれました」とあります。
漱石に見出されて世に出た三重吉ですから、鏡子夫人にもきちんと礼を尽くしていたのですね。しかし鏡子夫人は続けます。

「鈴木さんは御酒が好きで(中略)正月元旦と云えばいの一番に私の家へ来てくれるのです。朝の十時頃から三四時頃迄つぎからつぎとくる人を相手に飲むので、ひる過ぎにはきまってだれかにつかかりはじめるので、おこるやら又なく事もあり、いろいろと変るのです。しまいにはもう面どうになって早く帰してしまおうと思い、車をたのみ玄関迄つれ出して外とうを着せようと思うと、手をだらっと下げて外とうをおとしてしまい、車にのせればおりてしまい、そんな事を二三度くりかえし、やっと乗せて門を引出す、やれやれとほっとしたものです」

あれ? 三重吉さん、ちょっと飲みすぎました? でもたまに酒で失敗することなんて誰にでもあることです。
それでは次に三重吉と同じ漱石門下の小宮豊隆の証言を聞いてみましょう。

「三重吉は我の強い男だった。酒に酔うと、殊にそれが劇しかった。そういう場合、三重吉は必ず一座の者に号令をかけて、すべて自分の思い通りに振舞わせなければ気がすまない。(中略)何か少しでも御機嫌を損じさすような事でもあると、一座の誰かを目の敵に選んで、それに無闇に突っかかっていく」

同じく漱石門下の森田草平も「料理屋の女中を叱り飛ばすばかりでなく、奥さんだって、お客の前でがみがみ怒鳴りつけ」ていたと書いています。

雲行きがあやしくなってきました。
どうやら三重吉先生かなりの酒乱だったらしく、お酒を呑むと周りの人間にひたすら絡む癖があったようです。

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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