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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場

【文豪と三角関係】早逝した天才詩人・中原中也と運命の女・長谷川泰子、盟友・小林秀雄との「奇妙」な三角関係(前編)

愛情も喧嘩も嫉妬も、その表現のすべてが風変りなふたり

永井が京都の路上で演奏していると、ある学生が「おじさんおもしろいね」と声をかけてきます。
当時16歳の中也でした。

永井に気に入られた中也は永井の紹介で表現座という劇団の稽古場に見学に行き、そこで住み込み劇団員となっていた泰子と運命の出会いを果たします。薄暗い稽古場の椅子にちょこんと座って練習風景を眺めていた中也を、3つ歳上だった泰子は「小さな中学生だな」と思ったといいます。

最初に声をかけたのは中也からでした。「これがダダの詩だよ」とノートに書かれた自作の詩を見せる中也。中也の詩を泰子はよくわかりませんでしたが、ただ字面が面白かったから「おもしろいじゃないの」と答えると「おれの詩がわかるのはお前だけだ」と中也は大喜び。中也は泰子を気に入り、それから二人は頻繁に会うようになります。

泰子はのちに中也との日々を衝撃の告白的自伝として出版している
泰子はのちに中也との日々を衝撃の告白的自伝として出版している

ある日、表現座が解散することになり、住むところがなくなってしまった泰子に中也は「おれの部屋にきてもいいよ」と声をかけます。なかなか大胆な誘いですが、お金もなく途方に暮れていた泰子は中也の言葉に甘えることにします。

「私のほうが年上だけど、中原は兄のようにも父親のようにもふるまい、詩ができるとすぐ見せてくれました」と当時を振り返る泰子。中也の詩を聞いて涙をボロボロ流して泣いたこともあるそうです。かと思いきや喧嘩もよくしたそうで、中也は家事が得意ではない泰子のちょっとした失敗なんかを嬉しそうにからかったそうです。
ある時、泰子が怒りながらご飯を茶碗によそっていると中也がこう言います。

「怒っているといって、ご飯よそっているじゃないか。それは怒ってない証拠だよ」
「まだ怒っているけど、ご飯よそうのと怒っているのとは別よ」

泰子がそう言うとニヤニヤ笑う中也……とっても幸せそうで何よりです。

またある時は、二人で四条通りを歩いていると中也がふと立ち止まってこう言います。
「ちょっと、女郎を買いに行って来るよ」
急にどうした、中也くん。同棲相手に言うセリフではないですよ、それは。
泰子は「子供のような男が、下駄の音をひびかせ、薄暗い路地へ消えてゆく」姿を見送りながら「阿保らしくなって」さっさと家に帰ります。間もなく帰ってきた中也は照れながらニヤニヤ笑っていたそうな。いったい何がしたいんだ、中也くん。

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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