よみタイ

ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、開発会社との打ち合わせを経て、アプリ完成への長い道のりを知った太陽。それは未経験の小柴も同じようで……。

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第4回 アプリ開発に欠かせないのは、家作りと同様のアレ!?

「ライジング!」 第4回

 その日の夜、松田は小柴に誘われて〝きょん〟という焼き鳥屋に来ていた。野島は別件があったので、今日は二人きりだ。
〝きょん〟は出来てすぐの店らしく、看板や内装など、何から何までピカピカだった。

「こちらへどうぞ」
 カウンターを通り過ぎ、奥にある個室に通された松田は、一杯目に生ビールを選んだ。
「タイヨーはビーラーなんだな」
 ビール好きを意味する〝ビーラー〟という呼び名は、さほど一般的ではないものの、照鋭社では定着しており、比較的誰もが使っている。
「コシさんどうされます?」
「う~ん……じゃあ私も生を試してみるか」
「試す? 別に珍しい銘柄じゃないですよ」
 メニューを見て首をかしげる松田に、小柴は「甘いなタイヨー」と言って話しはじめた。
「私も昔はそう思ってたんだよ。でもある日、とんでもなくマズい生ビールに出会ってね。キレの悪い苦みが舌に残って、香りも古くなったお茶みたいでさ。妙に酸味があるのに、ビールの風味は薄くってね。人生で初めて生ビールを残したよ」
 
 小柴がそこまで話した時、店員さんがやって来た。小柴は話を中断して「生二つと、お任せのコースで」と注文すると、松田に向き直る。
「その店だけダメなビールを出してるんだと思ったんだけど、その後もたまに出会うようになったんだよ、マズい生に。高級店だからおいしくて大衆店だからマズい、ってわけじゃなくて、理由は分からないけど生のマズい店がある……。それに気づいてからは瓶ビールばっかり頼むようになってね」
 小柴がそこまで説明した時、店員さんがビールが並々と注がれたジョッキを二つ持って来た。ジョッキ自体を冷やしていたらしく、周囲は霜が降りたように真っ白になっている。取っ手を持つと、ひんやりと冷たい。
「お疲れ様です!」
「お疲れ」
 松田と小柴はジョッキを軽く重ね合わせ、ビールをグイッと呷った。
「……っはぁぁ! うまい!」
「うん、うまい」
 満足そうに頷いた小柴に、松田は質問をした。
「結局、原因って分かったんですか? ビールのおいしさに差が出る原因」
「うん。分かった。ある日行った店でビールが飲みたくなったんだけど、瓶ビールが無かったんで生を頼んだんだよ。そしたら驚くほどうまくて。思わずカウンターの中にいるお母さんに『ここの生ビールはめちゃくちゃ美味しいですね』って言ったんだよ。そしたら笑いながらビールのおいしさに差が出る理由を教えてくれてさ」
 そこまで言うと、小柴はジョッキを持ち上げてビールをごくごくと喉に流し込んだ。そして「ふぅ」と一息をついた。

美味しい生ビールにはいくつもの理由がある
美味しい生ビールにはいくつもの理由がある

「お母さん曰く、ビールが美味しい店とマズい店の差は〝ビールサーバーをしっかり洗浄しているかどうか〟らしい」
「え、そんなことなんですか?」
「そう、そんなことらしいんだよ。理想は毎日洗浄することらしいんだけど、ついついサボっちゃう店や、そもそもサーバーの洗浄がそんなに大事なことだと思っていない店もあるみたいでさ」

 その時、店員さんが一品目の料理〝柿のナマス〟を持って来た。柿を使った酢の物である。柿の実をくりぬいて器にしており、大根を細く切ってつくられたナマスの上には、黒ゴマが軽く振りかけてある。見た目からして美しい。
 ナマスを口に入れると、酸味と同時に甘みも感じる優しい味になっていた。大根に柿の甘さがほんのり移っているのだ。底にはサイコロ状に切った柿の実があり、上にかかったペースト状のソースも柿の実を使ったもののようだ。恐ろしく手間のかかる一品だ。
 松田は一度に食べるのがもったいなくなり、ちびちびとつまみながらビールを呷る。料理に合わせて飲むと、ビールもよりおいしく感じた。

「にしても、ビール会社もたまったもんじゃないですね。いくら美味しいビールをお店に渡しても、管理不足のサーバーのせいでマズいなんて思われちゃって」
「だよなぁ。ビールメーカーも、サーバーの洗浄は小まめにするようにって言っているらしいんだけど、守らない店も多いってさ」
「手順さえ守れば美味しいビールが出せるのに……」
 松田が言うと、小柴が彼をピシリと指差した。
「そこだよタイヨー!」
「うわっ! びっくりした! 何ですか急に」
 思わずのけ反る松田に小柴が言う。
「今日誘った理由を思い出したんだよ」
「理由あったんですね」
「うん。今日は理由がある日。アプリ作る手順を詳しく聞いておこうと思って。今やってるのが企画の打ち合わせでしょ? それが終わったら次はなに?」
「企画打ち合わせが終わったら、次は要件定義ですね」

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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