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デビューしてもまだ新人賞に応募する男・リューノスケ【新人賞コンプレックス 第3回】

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「結果を待っていない状態」が怖い

 こうしてリューノスケはS社のエンタメ小説誌でエッセイ連載を開始し、不定期に短編を掲載してもらえるようになった。いわゆる「商業誌デビュー」である。
 ここで「小説家にとってのデビューとは何か」という難しい問題が発生したので、少しだけ解説をしたい。第1回でも述べたが、究極的には小説家を自称すれば作品がなくても小説家にはなれる。ただ、その場合は社会的信用がなく職業として成立しているとはとても言えないので、商業流通している媒体での作品発表が一応のデビュー目安となる。
 さらに細かく言えば、「雑誌やアンソロジーでの作品掲載(商業誌デビュー)」と「単著刊行(単著デビュー)」でも扱いが微妙に違う。私の話をすると、「商業誌デビュー」は2018年になるが「単著デビュー」はそれから5年後の2023年である。そしてこの「作家なのか作家じゃないのか」が自分でもイマイチわからない5年間こそ、私の小説人生でいちばんキツかった。編集者に原稿を送っても半年から1年音沙汰がないなんて当たり前だったし、原稿を持ち込もうにも私が商売相手として見られていないのは明らかで、「雑にあしらわれている」のが自分でもわかるほどだった。しかし単著を出すと状況が一変した。単著はビジネスパーソン的には「名刺」みたいなもので、自分の本のタイトルを唱えれば誰もが私を作家扱いしてくれた。また、当時SNSを駆使して仕掛けていた当たり屋みたいなヤンチャ営業をしなくてよくなったので精神状態が安定したのは大きい。作家により事情は異なるだろうが、私の体感では「商業誌デビュー」と「単行本デビュー」はこのくらい違う。
 話を戻そう。
 リューノスケはこのようにしてS社のエンタメ小説誌をホームとして作品発表するようになったのだが、そこで事件が起きた──なんとS社の別の文芸誌が運営する新人賞で彼の作品が一次通過を果たしたのだ。私の知る限りではあるが、この偉業によりリューノスケはS社の小説誌で連載を持ちながらS社の新人賞に応募し微妙に通過してしっかり落ちた史上初の作家となったのである!
 私はすぐさま彼にどうしてこんなことをしたのかと問うた──あんたはもう新人賞に応募なんてしなくていいじゃないかと。
「結果を待ってないと落ち着かんねん」
 それが彼の返事だった。
 リューノスケは小説を書き始めてから(厳密には「最初の小説を書き終えてから」)の15年間、常に新人賞の結果を待っている状態にあった。彼にとって新人賞は中毒性の高い麻薬のようなもので、小説を書き終えて郵便ポストに放り込んでから結果が出るまでの「トリップタイム」──前回のナオキにとっての「ヒリつき」──が執筆に不可欠になってしまったのだ。実際、彼は有名な新人賞だけでなく、日本有数の新人賞オタクを自負する私ですら1文字も聞いたことがないマイナーな賞へも応募しまくっていた。そして彼はこう続けた。
「俺はいつも結果を待っている状態で小説を書いてきたから、結果を待っていない状態になるのが怖い。結果を待っていない時間がやってきたら、俺は完全に燃え尽きて小説を書かんくなってしまうかもしれん──」
 私は涙を禁じ得なかった。
 リューノスケは新人賞を獲りたくて新人賞に応募していたわけではなかった。彼は小説を書くことを心から愛していて、その愛を永続させるために新人賞に応募していたのである。

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リューノスケによる究極の創作論「小説昇天執筆術」

 前回登場したナオキは「小説家になりたくて新人賞に応募するなど邪道」という信念を貫いたが、リューノスケはそれとは真逆のスタンスである。ナオキはエンタメ、リューノスケは純文学と主戦場としていたため考え方が大きく異なるのは自然ではあるけれど、両者の創作論を比較してみるとなかなか面白い。
 応募する新人賞とジャンルへのリスペクトを重視するナオキは、傾向と分析に特化した戦略を立てていた。彼のオリジナルは傾向分析の方法にあり、「加点要素は一切参考にせず、減点傾向に注視する」というディフェンス中心のファイトスタイルだった。
 一方でリューノスケは超攻撃型だ。15年も新人賞に応募し続けていたにもかかわらず、彼は傾向と分析を一切おこなっておらず(受賞作の雰囲気から「こんな感じなんや」くらいの肌感は持っていたようではある)、己の裡に秘めた欲望を個性的な文体で叩きつけるスタイルだった。キクチに「新人賞受賞は絶対ない」と言わせつつ、彼の心を完全制圧したように、一般ウケはしないが特定の人間にはエグい刺さり方をするのが彼の強みである。
 彼によれば、小説でいちばん大事なのは「天に届く」ことだ。この言葉は三島由紀夫が画家の横尾忠則に言ったもので、その信仰を高めさえすれば価値観がブレたり些細なことで悩んだりはしなくなるとのこと。誰に読まれなくとも、天に届けばいい。リューノスケに聞いてみると、彼の作品は世間的に高く評価されたもの、売れたものだけでなく、編集者をガチで引かせてボツになったものや新人賞で1カスりもしなかったものも含めすべて「天に届いている」らしい。こうやって感覚を極限まで研ぎ澄ませ、己の中に眠っている小説執筆への欲望の奥深くに潜り込んでいくことで彼の作品は生まれている。マインドに関して、私はこれこそ「究極の創作論」だと思っている。例えるなら、HUNTER×HUNTERでネテロ会長が感謝の正拳突きを極めまくって音を置き去りしたアレである。丹念に読めばリューノスケの小説からも観音様を見出すことができるだろう。

 この「小説昇天執筆術」を駆使し、商業デビュー後も小説を書き続けるために新人賞へ応募を続けていたリューノスケだったが、S社より悲願の単行本が刊行されることになったタイミングで編集者から「新人賞引退勧告」を受けた。曰く、「お前はもう新人じゃない」。
 いつか来るとわかっていた終わりだったからか、彼は意外にもすんなり受け入れた。そしてSNSで新人賞勇退を報告すると、多くのファンやライバルたちから多数の「いいね!」と温かいコメントが寄せられたのだった。
 こうして彼の15年にわたる戦いが終わった。
 最後に応募したのは第64回群像新人文学賞だ。結果は5次通過で、最終候補の一歩手前だった。

 次回連載第4回は8/5(水)公開予定です。

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大滝瓶太

作家。1986年生まれ。兵庫県淡路市出身。京都大学大学院工学研究科(博士後期課程)を単位取得満期退学。2018年、第1回阿波しらさぎ文学賞を受賞。2023年、初のミステリー作品にして単著デビュー作『その謎を解いてはいけない』を刊行。他の著書に『花ざかりの方程式』、エッセイに『理系の読み方』。

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