2019.5.5
お母さんは結婚の続け方を教えてくれなかった
【ホク子の場合】
流産のときの母の顔
ホク子は結婚して2年目、子どもはいない。
結婚してすぐに妊娠したが流産した。
流産は悲しかった。そしてつらかった。
流産後の処置を産婦人科でしたとき、
診察台の上で涙が頬をつたった。
その日、実家から母が泊まりがけで来て、
付き添ってくれた。
産婦人科の待合室のソファで、
「大丈夫だからね」と、
手を握ってくれた母の表情は、
言葉とは裏腹に、
「ガッカリ」そのものの表情に思われた。
夫はもうすぐ40歳だが、
ホク子はまだ33歳。
時間の余裕はある。
でもどうしても、次の妊娠に踏み切れない。
また同じように流産してしまったらと思うと、
自分や夫の悲しみよりも、
あの日の母のガッカリした顔が思い浮かんで、
躊躇してしまう。
流産してからかれこれもう1年あまりが過ぎた。
結婚についての母の心配
夫とは社会人になってから、
大学の部活の同窓会で知り合い、
最初から結婚を意識して付き合った。
交際期間は、二人で出かけるなどの、
いわゆる恋愛のようなこともあったが、
もっぱら結婚の条件を整える準備期間だった。
そして仕事のことなど、
お互いに条件がすり合わさったところで、
具体的な結婚の準備に入った。
結婚式の日時の目星を付け、
その前後での新居の確保を計画し、
その中で互いの実家への挨拶もした。
ホク子の両親に夫が挨拶に来た日、
夫が帰ったあとで母は、
「私は、アナタが30歳までにちゃんと結婚できるのか、
本当に心配だったのよ」
「私は短大でいいって言ったのに、
4年制に行って、なのにけっきょく普通のお勤めだし、
30歳までにお嫁のもらい手がなかったら、
どうするんだろうって」
「でもあと少し頑張って、
29歳のうちに結婚式をしてもらいたかったわ」
母はホク子の夫が、思いの外よい人だったから、
安心して口を滑らせたのだろう。
29歳で準備が整ったから、
結婚式は30歳になってからだった。