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南和行「離婚さんいらっしゃい」

家族を守るためです。私はカルトじゃありません!

亡くなった小さな命と心の穴

二人目を妊娠してしばらく、
マテ子は、長女の妊娠のときと違う異変を感じた。

長女のときは妊娠初期から、
「あ、身体の中にいる」という存在感があったが、
二人目は、自分の身体の中にいるのに、
どこか「遠くにいるような」存在感だった。

おかしいなと思っていたら、
健診で「心臓の音が聞こえない」と医師に言われ、
流産がわかった。

マテ子は、長女のときと同じように、
数ヶ月もすればお腹が大きくなり、
赤ちゃんとなって当たり前のように生まれてくると、
そう思っていたことが、
「なくなった」喪失感をどう受け止めていいのかわからなかった。

何よりも流産した子に「会いたかった」と思った。

流産の理由や原因なんてまったくわからないのに、
「自分が何かをどうかしていれば」
二人目の子に会えたのではないか、
そんなことばかりが胸によぎった。

夫はマテ子の心と身体をめいっぱい気遣ってくれた。
それはとてもありがたかったが、
よりいっそうマテ子の罪悪感を募らせた。

「流産したのは私なのに、
 私は夫に気を遣わせているなんて」

と、思う必要のないことだとわかっていても、
自分を責める言葉ばかりが思い浮かんだ。

マテ子はそれまで「笑顔になれば」と、
思って生きてきた。

「笑顔でいれば」空気もおいしくなると、
自分に言い聞かせていた。

マテ子を気遣ってくれる優しい夫、
愛らしい長女、
マテ子は、大好きな家族のために、笑顔を作ろうとした。
マテ子が笑顔になれば、うまくいくはずだった。

子どもの頃から周囲の大人には「朗らかないい子」と言われた。
マテ子の笑顔が大好きと友達はみんな言ってくれた。
笑顔がトレードマークと言われたあの結婚式。

本当は、まだ気持ちは全然、晴れてなかった。

でも、笑顔を作るのが、家族の中でのマテ子の役割だと、
マテ子は自分で自分に言い聞かせた。

「こうすれば心からの笑顔になれるのよ」
と誰かに何かに頼りたい気持ちで、
でも、家族のためにマテ子は笑顔で「ありがとう」「ごめんね」と言い続けた。

カフェとの出会い

ある日曜日、夫に誘われて、
マテ子はベビーカーに長女を乗せて、
家族で少し遠くまで散歩した。

たまたま見かけたカフェに入り、
オープンテラスでランチを食べた。

赤ちゃん連れでも居心地が良い店だった。

笑顔があふれていた。

店員たちは、
水を出すにしても、
注文を聞くにしても、
料理を出すにしても、
ひとつひとつ笑顔だった。

ベビーカーの中の長女にも、
「んまんま」と、
してくれる明るい店だった。

マテ子と夫はランチだけでなく、
そのままそこでオーガニックのクッキーと、
ハーブティーまで注文し、のんびりしてから帰った。

マテ子は、久しぶりに心が晴れる気がした。

自分が「笑顔になれば」空気がおいしかったことを、
思い出せた気がした。

「笑顔にならねば」という
マテ子の気持ちを
優しく包んでくれる気がした。

家に帰ってスマホで調べたら、
そのカフェは、チェーン店ではなく、
他県にあるファーム(農園)が直接運営をしている、
オーガニックにこだわったカフェだということだった。

日曜日の営業は月に2回しかなく、
マテ子は運良く営業日に巡り合えたとわかった。

マテ子は、そのカフェは自分にとっての、
大きな出会いのような運命を感じた。

その日からマテ子は、
週に少なくとも3日くらいは、
昼下がりにベビーカーを押して、
長女を連れてそのカフェに通うようになった。

カフェの店員さんたちは皆笑顔で、
優しくて、いろいろなことを教えてくれた。

マテ子はここに来れば、
自分の笑顔が取り戻せるような気がした。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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