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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

夫が消した社内定期預金の行方

nullplus/Shutterstock
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【チキ子の場合】

デキる主婦の母

「特にこだわりがないなら、就職先は金融か生保がいいと思うわ」

これはデキる主婦としての母からのアドバイスだった。

母は短大を出て生保に就職し、
同じ会社で出会った父と結婚、
その後は、専業主婦になったが、
そのぶん父はバリバリ働いた。

母もただノンビリと専業主婦をしていたのではなく、
毎日、父と子供たちの弁当を作り、
空いた昼間の時間はコンビニのレジ打ちのパートに出て、
できるだけ家でおいしい食事を作り、
外食はあまりせず、
服や自転車は、子供同士で使い回した。

チキ子は女の子だったが、
子供用の自転車は兄のお下がりだったし、
弟の服は、小さくなって着られなくなった兄の服というのが常だった。

父の給料が安かったというわけではない。
父が地方の支社長で単身赴任をしていたときは、
いろいろな手当が付いて給料もかなり高かったと母はいう。

それでも母がコンビニのレジ打ちのパートに出たのは、
「お母さんの財布からの日常の買い物を、
 全部、お母さんのお金から出すようにするおくため」
だった。

母は父の給料は、日常の生活には使わず、
住宅ローンの引き落とし、
生命保険の引き落とし、
子供の学費の引き落とし、
定期預金への振り替え、
にだけ回していた。

子供の頃のチキ子には、
そんな仕組みは知らなかったが、
たしかに母はいろいろ工夫をしていたと、
今になって振り返ると思う。

チキ子の両親は、
23区内ではないけど都心にアクセスしやすい東京都内で、
それなりに広い家を建てることができた。

そのおかげで、チキ子と兄と弟の三人の子供は、
それぞれに自分の部屋がある良い環境で育つことができた。

母親が近所のコンビニでレジ打ちをしているのは、
友達同士の間では少し気恥ずかしかったけど、
そのぶん、母は夕方には家に帰ってきて、
毎日のようにあれこれとおいしい手料理を作ってくれた。

だからチキ子は外食への「憧れ」は全くなく育った。

今から思えばそれも母親の節約の一環だったのだ。

休みの日も、テーマパークに出かけるのではなく、
高尾山、小田原城と、お金のかからない所へ
家族で弁当を持って出かけた。

家族みんなでの行楽は単純に楽しく、
「遊ぶことはお金を使うこと」とは、
全く感じずに育った。

チキ子の両親はずっと仲が良かったし、
チキ子と兄と弟も仲が良かった。

家族で過ごす時間は楽しいと、
チキ子が素直に思って大人になれたのは、
お金を使わなくても、
家族で過ごす時間を豊かにするという、
デキる主婦である母親のおかげだった。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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