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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

私は平日だけの母親なのか

©Shutterstock
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【ゼル子の場合】

長男と二人暮らしのゼル子

ゼル子は45歳、
中学1年生の長男と二人暮らしだ。

別居している夫とは、
子供が成人したら離婚しようと、
前から話をしている。

ゼル子は全国に事業所がある機械メーカーの人事部で、
管理職をしている。

会社の組織改革で、
管理職の肩書きがすべてカタカナになったのだが、
一般の会社でいえば「課長」の筆頭、
「部長」の手前というところだ。

ゼル子の会社は、もともとは昔ながらの日本型企業で、
大卒の女性採用は、技術開発の専門職ばかりで、
管理部門や営業は「男の牙城」だった。

ゼル子は、そんな中、
初の文系の大卒の女性採用だった。

それが1996年のことなのだから、
どれだけ「古い体質の会社」だったかということだ。

ところがそこから長引く不況で、
会社の業績がどんどん悪化し、
会社の大株主が創業者一族から外資のファンドへと代わり、
会社の体質がビックリするほどあっという間にガラッと変わった。

特に本社を中心とする管理部門の人事制度が大きく変わった。

ゼル子が入社したときの上司は次々と辞めていき、
気付いたらゼル子は同世代の生き残りとして出世頭となっていた。
ゼル子は、そんな会社の変革の荒波にもまれつつ、
結婚と出産、そして育児をこなした。

5歳年上の夫は、
大手通信インフラ系企業の人事部勤務で、
大企業の人事担当者の勉強会で知り合った。

知り合って付き合うようになったのは、
20代後半だったが、
ゼル子の会社の組織が変わったり、
夫が子会社に出向になったり、
なかなかタイミングがなく、31歳でやっと結婚した。

結婚の翌年に長男が産まれた。

しかし、長男が小学5年生のとき、
夫と別居することになった。

原因はゼル子の不倫だ。

週末の自由を手に入れたゼル子の不倫

長男が産まれたとき、
夫とは共働きだから、育児は等しく分担しようと話しはした。

しかし気付いたら、育児にまつわる、
ほとんどのことをゼル子がする結果になっていた。

ただ長男が小さい頃は、
それも「これが母親の役割」と、
ゼル子も自分に言い聞かせて納得するようにしていた。

たしかに、長男がまだ赤ちゃんというような頃は、
子供の成長の過程を独り占めできることを、
母親の特権のように思い誇らしいと感じることすらあった。

でも、それはせいぜい幼稚園までだった。

長男が小学生になれば、
これまで肉体労働中心だった育児が、
たくさんの事務作業や軽作業へと変わった。

会社の仕事と子供の用事と、
時間の折り合いをどうにかすること、
会社の同僚たちや相手先に、
無理をきいてもらうことが、
ゼル子にとっての「子育ての事情」となった。

学校の参観や懇談、
長男の習い事の送り迎え、
ときおりやってくる何かしらの「説明会」。
それが「行かねばならない」ものかどうかも、
行ってみないとわからない。

ゼル子の会社はその頃にはすっかり外資系になっていたので、
ゼル子は堂々と「制度を使う」ことができた。

でも入社した当時のままの会社の組織だったら、
ゼル子はとてもこんな風にはできなかっただろう。

夫は何もしなかったというか、
気付いたらゼル子しかできない生活になっていた。

一度、学校からの家庭生活の調査票を、
書いてみないかと夫に水を向けたら、
「書こうとしても何を書いていいのかわからない」と、
投げ返された。

そんな夫なのに、
長男が小学校にあがった頃から、
長男と「男同士」で楽しいことだけツマむようになった。

例えば夏休みの家族旅行。
飛行機やホテルやレンタカーの手配はゼル子の仕事で、
旅行先で長男と楽しく遊ぶのが夫の「仕事」という具合だ。

そんな中、小学校3年が終わる頃に長男が、
サッカーチームに入りたいと言った。

話を聞くと、土日は朝早くから練習があるという。
弁当まで用意しなければならず、
チームの子供達を家の車に乗せて、
遠征試合に行くこともあるという。

ゼル子は正直「めんどうくさい」と思った。

しかし、夫は賛成だった。

そのときゼル子は楽しいことだけつまみ食う夫に
うんざりを我慢できずわかりやすくキレた。
そして、夫には長男のサッカーを受け容れることと引き換えに
長男のサッカーだけでなく、
週末の家のことをすべて夫がすることを、
約束させた。

かくしてゼル子は週末の自由を勝ち取った。
ところが週末の自由を勝ち取ったゼル子は、
早々に不倫してしまった。

桜の季節の土曜日に、
学生時代のバイト仲間の集まりでの花見、
久しぶりに再会した当時の先輩に誘われるまま
関係を持ってしまった。

互いに既婚者で学生時代に戻っての一晩だけのつもりの関係が、
ズルズルとなり、
不倫相手の妻が、どこでどう調べたのか、
ゼル子が不倫していると夫の職場に電話をした。

やむなくゼル子は弁護士に依頼し、
不倫相手の妻に慰謝料を支払い、
不倫相手との関係も清算し、
夫にも頭を下げてなんとか泥沼の状況から抜け出した。

そして、夫から別居を切り出された。

ゼル子に選択権はなかったが、
子供が成人するまでは、
離婚はしないでおこうと夫に言われた。

まだ小学生の長男には、
母親のほうが必要だからと、
夫が言い、夫から家を出た。

ゼル子と長男はそのまま家族で暮らしてきた賃貸マンションに残り、
夫は、すぐ近くに別にマンションを借りた。

週末は息子が夫のマンションに泊まりに行く形になり、
たまには、三人での外食もした。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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