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南和行「離婚さんいらっしゃい」

私は誰にも育てられなかった

オフ子10歳、母30歳、祖母48歳

オフ子の学校の用事には祖母が来た。

祖母はパーマをかけていたし、
明るい色の服をよく着ていた。

オフ子の同級生の母親が、
「オフ子ちゃんのお母さん」
と祖母のことを呼んだとき、
祖母もそれを聞き流したし、
周りも特に変な顔をしなかった。

オフ子は「お祖母ちゃんなのに」と思った。

でも、たしかに、
参観日にほかの同級生の母親と、
オフ子の祖母が並んでいるときには、
同じような年齢に見えた。

クラスメイトに、
「オフ子ちゃんのお祖母ちゃん、若くていいね」
と言われたときに、

「若くていい」とは思わなかったけど、
どうもうちの家族の年齢は、
よそと違うように思った。

オフ子の10歳の誕生日のとき、
母親の30歳の誕生日のお祝いも一緒にした。

そのときは祖母の母親という人も来て、
駅前のファミレスに行った。

そのときしか会っていないが、祖母の母親を見て、
「テレビに出てくるようなお祖母ちゃんだ」
とオフ子は思った。

祖母は48歳だった。

姉がいなくなった

オフ子と姉は2つ違いだった。
オフ子にとって遊び相手はいつも姉だった。

姉と二人で、少女漫画の雑誌を読んで、
そこに出てくる姉妹アイドルの歌の振り付けを、
一緒に練習もした。

小学生のときは、
祖母が帰ってくるまで、
祖母の化粧箱をあさって、

お互いに髪の毛の編み込みをしてみたり、
かわいいリボンの結び方を試してみたりした。

オフ子も姉も勉強は嫌いだったし、
宿題もしなかった。

祖母にも母親にも怒られないから、
学校で教師に怒られても平気だった。

ただ姉が中学校に入ってから、
姉となかなか一緒に遊べなくなった。

オフ子が小学6年、姉は中学2年の夏休み、
姉は「先輩たちと海に行く」と言って出て行った。

オフ子の地元の県は海がないから、
オフ子はうらやましいなと思った。

海に遊びに行った姉が家に帰ってきたのは、
夏休みが終わる日だった。

髪の毛が外国人のように金髪になっていて、
肌は真っ黒に日焼けしていた。

さすがにオフ子も姉が「不良になった」と思った。

ちょっと怖いなと思ったけれど、
姉が大人になったような匂いがして、
カッコいいなとも思った。

それからしばらくして、
また姉が家に帰ってこなくなった。

海に出かけて帰ってこないときは、
祖母がよく姉に電話していたけれど、
今回は、祖母も姉がどこにいるのか知っている様子で、
姉に電話をすることはなかった。

その代わり、
祖母は「今日はお姉ちゃんに会いに行く日だ」と言って、
仕事を休むことが何回かあった。

またある日は、オフ子が家に帰ると、
祖母だけでなく母親も家にいて、
オフ子の知らない大人二人と、
話し込んでいたこともあった。

その大人二人は、
姉が好きな歌手のCDやビデオの名前を、
ノートに書いて帰って行った。

それから姉は帰ってこないままだった。

姉は「学園」に行っていた

オフ子は中学生になった。

姉は帰ってこないままだったが、
祖母と母親はまた前と同じような感じだった。

中学の入学式には、
祖母と母親と三人で行った。

中学校に入ってすぐ、
昼休みにオフ子の教室に3年生の女子が来た。

その上級生は、姉の友人だと言った。
姉が中学に通っていたなら、たしかに3年生だ。

そのときオフ子は初めて、
姉が「学園」というところにいることを知った。

姉の同級生が言うには、
姉には「彼氏」がいるらしく、
その「彼氏」が、「ごめん」と言っているというような、
そんな話だった。

オフ子はもともと、
人の話を頭に入れるのが苦手だったので、
なんとなく黙って、話を聞いている顔をした。

オフ子は、中学校で友達ができなかった。

そもそも小学校でも友達がいたのか、
よくわからない。
なんとなく話しかけられたら、
話を合わせたり、うなずいたり笑ったりはしていた。

中学校では、話しかけられることもなくなった。

授業の中身もまったくわからなかった。
というか、英語も、数学も、国語も、社会も、理科も、
オフ子にとっては全部同じで、
「よくわからない」だけだった。

中学校でのテストは0点とか、3点とかだった。

その点数を見たクラスメイトに初めて話しかけられた。

「オマエ、女なのに、そんな点数って、すごいな。
 男でも恥ずかしい点数だろ」

と言われた。

恥ずかしいことなのかどうかもわからないから、
オフ子は笑って適当にうなずいた。

オフ子はセンパイの彼女になった

オフ子は、教室では話し相手がいなかった。

でも学校を出たら、
駅前のハンバーガー屋に、
姉の同級生たちがいつもいた。

そこでLサイズのコーラを頼んで、
夜までなんとなく一緒にいた。

姉が中学2年の夏に海に行って、
そこから大人の男の「彼氏」ができて、
でも警察に補導されて、
今は児童自立支援施設というところに入っている、
というのも、姉の同級生たちから教えてもらった。

中学を卒業したセンパイもいて、
オフ子の顔に化粧をしてくれた。

小学生のときに、
祖母の帰りを待ちながら、
姉とリボンを結んで遊んだときのようだった。

姉の同級生やセンパイたちは、
オフ子に優しくて、
オフ子が知らないことも笑わなくて、
秘密を明かすように教えてくれた。

きっと周りからは、
「不良」に見えるのだろうなと、
オフ子は思ったけれど、
別にほかにすることもないから、
そのことは気にならなかった。

「ねぇ。オフ子って、もう生理来てるよね?」

姉の同級生に聞かれた。
オフ子はうなずいた。

「実は、センパイの男子でオフ子のこと、
 むっちゃタイプって言ってる人がいて。
 彼女になりなよ」

と言われた。

その日、姉の同級生が言うセンパイの男子は、
ハンバーガー屋までオフ子を迎えに来て、
そのままオフ子は朝まで一緒に過ごした。

その日から仲間内では、
オフ子は、そのセンパイの彼女ということになった。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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