よみタイ

群ようこ「いかがなものか」
ふだん何となく思っていながらも保留にしがち、あるいは言い切れないこと。
世間で起こる事件、流行、事柄、町で見かけたことなどについて、
違和感と疑問をスパッと投げかける。
群ようこ流、一刀両断エッセイ。

第20回 不倫

 先日、俳優が不倫をしたとかで、謝罪会見をしているのをテレビで見た。複数のファンの女性に連絡を取り、家族も乗る自分の車の中で関係を持っていたのだという。
「全部、ものすごい近場でやってたのね」
 と妙に感心してしまった。しかし彼が神妙な顔で何度も頭を下げ、レポーターから性欲は強いのかと聞かれて、真顔で「はい」と返事をしたくだりでは噴き出しそうになった。たしかにやったことはいけないことではあるが、家族、仕事関係者に詫びる必要はあるけれど、私を含めた一般人に謝る必要なんかあるのだろうか。ましてや公衆の面前で「性欲が強い」と肯定させられるのも、私は笑ってしまったけれど、ちょっとどうなのといいたくなった。
 何年か前にホテルで密会したのがばれてしまった俳優が、そのホテルのポイントカードを使っていたらしく、けちくさいとか、みみっちいとかいわれているのも、インターネットニュースで見た。たまたまその二人がパンツをかぶって、大晦日のバラエティ番組で共演していたのを思い出し、
「今年の年末に、二人でできるネタが増えたじゃないか」
 と励ましたくなった。二枚目俳優でも、生き残る道はいろいろとあるのである。
 私の記憶のなかで、いちばん古い不倫謝罪会見は、某有名一族の娘と結婚した俳優だった。露出の多いお仕事の美人女優との不倫が発覚し、たしか妻が同席した会見で、公開処刑のようだった。妻の実家への配慮で、そうせざるをえなかったのだろうが、不倫をするといろいろと後始末が大変そうだった。一方で、あの女優さんとだったら、男性は浮気してしまうかもとも思った。
 不倫は契約、約束違反であり、私のなかでは絶対にしてはいけない事柄なのだが、それは夫婦の間で決めることだ。夫婦のどちらかが不倫をしたとしても、夫婦関係を続ける人たちもいるだろう。それはそれでいいわけで、他人があれこれいう問題ではない。週刊誌はネタが欲しいから、あれこれ情報を収集して、有名人の不倫ネタを記事にするわけだが、私も四十年近く仕事をしていると、出版関係者の様々な話が耳に入ってきていた。不倫の話もあったし、その結果、相手の女性に対してひどい扱いをする男性たちの話も聞いた。そんな社員たちのいる版元が、あれこれ他人様の不倫をネタにできるんですかねとは思っていたが、版元の仕事の方針には口を出せないので、耳にした噂話を軽々しく他人にはいわないという自分なりのきまりを作り、
「ふーん」
 と遠くから眺めていただけだった。

 私がまだ三十代の頃、担当編集者の知人男性が、雨の日の夜、追突事故を起こしてしまった。相手の車の後部がへこんでしまい、すべて自分が悪いと思って、彼はあわてて車を降り、運転していた男性と助手席にいた女性に向かって平身低頭して謝った。
「できるだけの弁償はさせてもらいます」
 というと、男性は車を降りて後部を確認して、
「あっ、平気、平気」
 という。しかし平気といえるようなへこみではなかったので、
「いや、これはちょっと……。これから警察を呼びますので、よろしかったらお名刺をいただけませんか」
 というと、急にその男女はあたふたして落ち着きがなくなり、彼が弁償するといっているのにもかかわらず、
「平気、平気だから」
 を連発して、それではさようなら~といった感じで、急いで車に乗って走り去った。
 当時はドライブレコーダーなどなく、置き去りになったいってみれば加害者の彼は、呆然としてその場に立ち尽くしてしまったのだそうだ。そしてこのまま帰るのもよくないと考え、車を運転して近くの交番に行って事情を説明すると、
「ふーん、訳ありかな。最近、よくあるんだよ」
 と警官にいわれたという。
 私にその話を教えてくれた編集者は、
「どうやら不倫だったらしいんですよ、その二人」
 といった。私はそれで、ああ、なるほどと納得した。あれこれ身元がばれたり女性との関係が知られるとまずかったのだろう。私は面白いもんだなあと思いながら話を聞いていたのだが、以降、不倫は当たり前のように耳に入ってくるようになった。
 そして男性、独身女性だけではなく、既婚女性も不倫をするようになってきた。私はもともと周囲の人の恋愛に関して、まったくといっていいほど興味がない。誰と誰が付き合っているという噂話も、話されたら、へええといって聞いているけれど、私のほうから積極的に、
「彼氏いるの? 誰と付き合ってるの?」
 と聞いたことは一度もない。どんな生き物を飼っているかはとても興味はあるが、恋愛には興味がないのである。
 積極的に恋愛情報を収集していないのにもかかわらず、私の耳に入ってきたこれまでの女性の不倫情報を総合すると、彼女たちの多くは夫とは離婚話は出ていないものの、関係はあまりうまくいっていない。そこへ夫の浮気疑惑、証拠のある間違いのない浮気が発覚し、問い詰めたものの夫は認めずに、のらりくらりといい逃れをしようとする。それで怒りが爆発して別の男性と、という場合が多いようだった。母となっても、別の男性と交際するという気持ちがあるのだなあと、私は不思議な気持ちになった。昔の多くの女性のように、結婚したら女ではなくて、母にならなくてはならないといった状況もよくないし、他にもストレスを発散するものがたくさんあるけれど、その対象が男性になってしまう人もいるだろうし、夫に対する嫌がらせという面もあるのだろう。
(あなたは知らないけど、私だって男の人とデートしたんだから)
 と見返したつもりなのかもしれないが、やり方としてはみっともない。
 私としては、夫に対してそんなに不満があり、いくら相手に怒りをぶつけても、のらりくらりとかわされて話にならないというのであれば、子供もそれなりに育ち上がっているんだから、離婚すればいいのにと思うのだが、彼女たちは絶対といっていいほど離婚しない。本当に嫌だとなったら、女性はあれこれ考えず、まず離婚するはずなのだ。それができないのは、特殊な状況でマインドコントロールされているか、結婚していることによって、自分にメリットがあるからだろう。
 たとえば自分の収入だけでは住めないような家に住めるとか、どんなに家の中が荒れていても、傍目はためには○○の妻としていられるとか、世間体が気になるとか。私が得た情報の人たちは、夫からのマインドコントロールは全く関係なく、ただぶつぶつと夫への不満をいっているだけだった。夫婦のことは夫婦にしかわからないので、他人が口を出す問題ではないが、「不倫をするくらいなら離婚しろ」である。安全パイを持っておいてルール違反を犯すのは、人としてどうなのだろう。一人で身軽になったほうがずっとせいせいするし、独身者だったら自分の好きなように恋愛できるではないか。
 不倫はしちゃだめでしょう、と不倫経験者の男性に話したら、彼は、
「でもやっちゃいけないことをしていると思うと、どきどきしてよけいに燃えるんですよね」
 といわれた。私は、
「はああ」
 というしかない。自分にあてはめて、そんな経験があったかと思い出してみたら、負けた人がみんなの食事代を支払うルールの麻雀をしたときくらいだろうか。あのときは本当にどきどきした。私は独身なので、いくら負けても支払いが自分にふりかかってくるだけだが、不倫はそうはいかない。特に子供がいた場合は相当、まずい。しかし親が信頼をどう回復するかは、家族内の問題であり、他人が口を挟めないのだ。
 何年か前にダブル不倫をした女優がいて、その相手が彼女のパンツをかぶったという話を聞いて、大笑いしてしまったのだが、どうせならこのような笑える話にして欲しい。なぜ不倫の話題になると、当の男性がパンツを頭にかぶるのかも謎だ。パンツがいけないことをしている男女の境界線になっているからだろうか。よゐこの濱口優が、苦難の果てに無人島で魚を「獲ったどーっ」と叫んでいるのと同じように、彼らもやっと「取ったどーっ」という気分になっているのだろうか。ダブル不倫の彼は奥さんのパンツもかぶったのかなと知りたくなった。不倫している二人のなかで、いろいろなお楽しみがあるのだろうが、それが外に漏れ出てしまうのは、気の毒といえば気の毒ではあるが、とっても恥ずかしい。
 不倫は本当に個人的な問題で、周辺の人以外には何の関係もない出来事だ。それは芸能人でも同じだろう。なのになぜ会見を開く必要があるのか。私は有名人の不倫のニュースを聞いても、
「ああ、そうですか」
 という反応しかなく、そこにパンツをかぶったというような笑えるネタがあったら笑う。それでいいのではないか。本人が我々に頭を下げる必要はない。以前に私が見た公開処刑的な思惑があるのなら別だが、双方、何の得にも損にもならない。不倫謝罪会見に時間を割くとテレビ局は何か得なことが起こるのだろうか。それを必要としている人って誰なのだろう。局側もそんな個人的な問題よりも、社会的に重要性のあるニュースを報じていただきたいものだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社、84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』を刊行。同年に同社を退職し、専業作家となる。小説に『無印OL物語』などの<無印>シリーズ、『かもめ食堂』『婚約迷走中 パンとスープとネコ日和』『咳をしても一人と一匹』『散歩するネコ れんげ荘物語』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『かるい生活』『まあまあの日々』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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