2019.9.17
私は誰にも育てられなかった
【オフ子の場合】
子供と離ればなれになっているオフ子
オフ子は23歳。
子供は一人、女の子がいる。
5歳になっているはずだ。
今は一緒に暮らしていない。
たぶん子供は夫と暮らしているだろう。
夫の両親は漫画に出てくるようなお祖父ちゃんとお祖母ちゃんだから、
一緒に住んでいるかもしれない。
「私のことを思い出してくれるだろうか」
オフ子は今いるアパートの窓の外をぼんやり眺めながら思う。
子供が3歳になったときに、
「保育園に預けられないかな?」
と夫に言ったら、
「オフ子、働きに出るの?!」
夫に聞かれた。
オフ子は、その日まで、
保育園というのは、小さい子供を、
なんとなく預けるところだと思っていた。
そのとき夫から、
保育園というのは、
働くママが子供を預けるところだと教えてもらった。
オフ子は保育園と幼稚園は、
なんとなく違うだけだと思っていた。
昼間、家で子供とだけ一緒にいると、
子供を追いかけ回すのがとても大変で、
保育園に預ければ、
昼間ゆっくりできるかなとオフ子は思ったのだ。
でもオフ子は、会社とかで働いたことがなく、
自分は働くのはできないと思ったから、
そのまま保育園の話は流れた。
オフ子は、そのことをSNSで再会した、
元彼にLINEで伝えた。
元彼はすぐに返事をくれた。
「オマエは、俺らと一緒にいるほうが、
ちゃんと仕事できるって」
と言われた。
夫は優しかったし、
無理強いもしなかった。
自分が「いつの間にか」
「ママ」になっていたことが、
不思議だった。
地元で仲間たちと、
なんとなく笑ったり話したりしていたほうが、
「自分」だったような気持ちがふと湧いた。
オフ子の母親と父親と
オフ子は、お祖母ちゃん子だった。
というよりお祖母ちゃんの家で育った。
祖母は町のボートレース場の切符売り場で働いていた。
オフ子と姉は、小学校が終わると、
祖母の住んでいる団地の家に帰った。
ランドセルにゴム紐で結んだ鍵で開けて部屋に入り、
テレビを見ながら祖母の帰りを待った。
祖母はたいてい近所のスーパーで、
何か晩ご飯を買って帰ってきた。
テレビを見ながら三人で食べて、
夜になって父親が迎えに来たら、
父親の運転する車で、
ランドセルを持って父親と母親の家に帰った。
そして朝は父親の車で、
学校に送ってもらった。
母親は、駅前のスナックでママをしていたので、
夜が遅かった。
日曜日は母親が祖母の家に来て、
オフ子と姉と一緒に過ごすことがあったが、
今、振り返ると、父親の家に帰ったとき、
そこに母親がいた記憶はない。
オフ子の父親は、車の運転が仕事だと言っていた。
父親が運転する車は、白だったり黒だったり、
大きなピカピカの車だったりした。
ただ、小学校の3年の頃から、
父親とは会っていない。
オフ子と姉にはいつも優しい父だったが、
母親と祖母に父親のことを聞いたら、
「もう会えない」と言われた。
母親も祖母も別に怒ることはなかった。
母親は相変わらず夜は仕事で、
日曜日にオフ子と姉と一緒に過ごした。
その頃から祖母の団地が、
オフ子と姉と母の家になった。