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感情を持つロボットを作ることはできるのか? 大阪大学准教授・堀井隆斗インタビュー

「内」と「外」をつなぐ触覚

僕は、感情の発達のカギを握っているのは触覚だと考えました。いくつか根拠はありますが、たとえば、触覚の中でも、ゆっくり撫でられたときに心地よさを伝える「C繊維」が脳の感情を処理する部位とつながっていることが分かっていたからです。実際、研究を進めると、幼児は触覚をカギに外的な情報を価値づけ、感情を発達させていくことが見えてきました。

面白いことに、このC繊維は腕や背中など、毛が多い「有毛部」に多いことがわかっています。ここはサルなど類人猿が仲間との結びつきを維持するために行う毛づくろい(グルーミング)でよく触れられる場所なのですが、そのことは、感情とコミュニケーションとの関係を示唆しているように思えます。

そう、感情には興味深い二面性があります。「だるい」とか、「心地よい」といった身体「内」部の感覚との結びつきが強い一方で、他者や社会など「外」との関係も強い。他者とのコミュニケーションにも重要な役割を果たすんです。

感情は、身体内部と結びついた個人的なものだけれど、同時に、他者や社会とも強く関係しているという二つの側面があるわけです。

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なぜ身体が異なる他者と感情を共有できるのか?

落ち着いて考えてみると、これはちょっと不思議です。

身体はひとり一人違いますから、それと紐づいている感情も、かなり個人差があるはずですよね。しかし、冒頭でも話したように、感情によって他者とコミュニケーションをとるためには、共通した構造がなければいけません。

アニメ『勇者警察ジェイデッカー』の主人公は、人間とまったく違う身体を持つロボットと感情を共有できていましたが、なぜ、そんなことができたのか。極端な話、人間の他者も、異なる身体を持つロボットのようなものです。それなのにどうして、僕たちは他者と感情を共有できるのか?

コミュニケーションによって、感情を共有する

僕はこのような問題意識に基づいて、やはり構成論的にモデルを作って実験してみました。著しく身体構造が違うという設定の人工エージェント二つにコミュニケーションをとらせつつ、それぞれのエージェントがどのように感情を発達させるか観察したんですね。

その結果、とても面白いことがわかりました。身体構造が違うため、それぞれのエージェントが持つ感情クオリアは異なるのですが、両者がコミュニケーションを重ねるにつれ、「それぞれの内部での感情クオリアの構造」が似てきたんです。

身体構造が違えば、内部に持つ感情クオリアも違うけれど、互いに言語などを使った社会的なコミュニケーションをとることで、個人内部での感情クオリアの構造が似てくるんですね。だから、僕たちは感情を使ったコミュニケーションがとれるんです。

僕らは感情によってコミュニケーションをとるけれど、それができるのは、コミュニケーションによって感情の構造を近づけているから、という、感情→コミュニケーション→感情……というループが成り立っているようなのです。

異なる身体を持つ他者と感情を共有できるのは、言語などのコミュニケーションによって感情の構造を近いものにしているためだ
異なる身体を持つ他者と感情を共有できるのは、言語などのコミュニケーションによって感情の構造を近いものにしているためだ

僕が取り組んでいる研究は簡単ではないですが、もしかすると子どものころの夢に近づいているかもしれません。僕ら人間とはまったく違う身体を持つロボットが相手でも、コミュニケーションによって感情クオリアの構造を近づけていけば、感情を共有できる友だちになれるかもしれないからです。

 次回連載最終回は5/6(水)公開予定です。

堀井隆斗(ほりい・たかと)プロフィール
専門は認知発達ロボティクス・記号創発ロボティクス。大阪大学大学院工学研究科知能・機能創成工学専攻 博士後期課程修了後(博士(工学))、電気通信大学大学院情報理工学研究科 特任研究員、大阪大学基礎工学研究科助教、講師を経て同大学院准教授。人の感情機能の発達原理に興味を持ち、計算モデルやロボットを用いてその過程を明らかにすることを目的とする。創造性や好奇心の計算モデル、実世界で共生するためのロボット学習技術や自動運転など、知能に関する幅広い研究に従事。

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新刊紹介

佐藤喬

作家・フリーの編集者。著書に『エスケープ』(辰巳出版)、『1982』(宝島社)、『逃げ』(小学館)など。構成作は『動物たちは何をしゃべっているのか?』(山極壽一/鈴木俊貴、集英社)、『AIに意識は生まれるか』(金井良太、イースト・プレス)ほか。

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