2025.11.5
子どもたちの「見えない友だち」の正体とは? 京都大学教授・森口佑介氏インタビュー
子どもは「未熟な大人」ではない
多くの大人は、いや、発達心理学者も、「大人が完成系で、子どもはそこに至っていない未熟な存在」という無言の前提を持っています。
しかし私は、そうではないと思う。子どもは子どもなりの、大人とは違う世界を生きているのではないか。そういう直観が、私の研究のベースにあります。
たとえば、意外かもしれませんが、大人よりも子供のほうが情報やデータを正確に受け止められる、という研究があります。大人は経験や蓄積した知識による予測などトップダウンの力が強いので、その意味では世界を歪めて見てしまう傾向があります。でも、そうではない子どもは、素直に世界を解釈する。だから、大人が引っかかる錯視に子どもが引っかからないような事例が見つかっています。
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子どものクオリア研究の可能性
私がまず子どものクオリア研究で手掛けたのは、色のクオリアの子ども-大人間の違いです。土谷さんたちが、色同士の類似度を手掛かりに色のクオリア構造を研究していますが、それを子どもにも応用したものです。言葉による質問ができる3~12歳の子どもたちと大人を対象に色のクオリア構造を調べたのですが、小さな子どもでも、少なくとも基本的な色に関しては、大人とほぼ同じクオリアを持っていることがわかりました。
この結果は、私にとっては少し意外でした。幼い子どもの色のクオリア構造は、もっと異質だと思っていたからです。
この研究は、子どもを対象にしてもクオリア研究が成り立ったという、試金石になったと自負しています。今後は、子どものクオリアについても、もっといろいろな研究が出て来るでしょう。

たとえば、虹の色の数が文化によって異なって認識されているように、色のクオリアは文化による影響を受けているかもしれません。そういった文化差がなぜ生じるのかも興味深いですね。
かつては、子どもの認知の発達は人類で普遍的だと思われていましたが、今は文化の影響があると考えられるように変化しています。ただ、文化人類学のような文化差を研究する学問は、まだ子どもから大人への発達を十分に視野に入れられていませんから、多くの謎が残っています。
それぞれの色への名づけなど、言語によってクオリアの文化差が生まれている可能性はありますが、仮に言語を獲得していない幼児でもクオリアの文化差が見つかれば、別のルートで文化差が生じているかもしれません。言語獲得とクオリアの関係は研究している最中ですが、今のところ、クオリアの文化差については、言語による影響と、それ以外の影響との二つがあると考えています。
クオリアの文化差を生む、言語以外の方向付けというと、親によるノンバーバルな影響などが考えられます。たとえば、言葉がわからない女児を、ピンク色のものばかりのおもちゃ売り場にしばしば連れていったら、ピンクに肯定的なクオリアを感じるようになるかもしれません。すると、一見、女児が「生得的に」ピンクを好むように見えてしまう恐れもあります。
イマジナリーな子どもの心
子どもが実在しない友だちと空想の中で遊ぶように、言葉を獲得していない子どもに話しかける親は、いわば「空想の子どもの心」を仮定して話しかけているのだ、という研究があります。たしかに、「子どもは〇〇〇と感じているだろう」というのは大人の勝手な思い込みであり、本当のところはわかりませんよね。私たちがコウモリの見ている世界を体験できないのと似ています。
でも、繰り返しになってしまいますが、私たちはみな、昔は子どもだったのです。異質な他者であり、しかし同時に、かつての自分でもある。そんな子どもの内的世界に迫るのは、スリリングです。
次回連載第10回は12/3(水)公開予定です。
森口佑介(もりぐち・ゆうすけ)プロフィール
専門は発達心理学・発達認知神経科学。京都大学大学院文学研究科博士課程修了後(博士(文学))、上越教育大学大学院学校教育研究科講師、准教授、京都大学大学院教育学研究科准教授、大学院文学研究科准教授を経て同大学院教授。子どもを対象に認知、社会性、脳の発達を研究する傍ら、子どもの発達の知見を広く社会に発信する。著書に「子どもの発達格差」(PHP新書)、「10代の脳とうまくつきあう」(ちくまプリマー新書)、「子どもから大人が生まれる時」(日本評論社)など。
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