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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション

前回は、風船の落とし物からキングカズを想像した著者。
今回は「金太郎」のパーティグッズを発見したようで――

桃太郎と浦島太郎に「金太郎」のラストをくっつけてみた

都内の路上で発見した金太郎グッズ。どんなパーティに必要だったのか。(写真/ダーシマ)
都内の路上で発見した金太郎グッズ。どんなパーティに必要だったのか。(写真/ダーシマ)

おかっぱで全裸で手にはまさかりの金太郎?

 春になりかけの東京に落ちていたのは赤いものであった。あれはもしやアントニオ猪木のタオルか、それともリバプールのユニフォームか、あるいはフレンドパークで関口宏が着ているジャケットか、カズレーザーの衣装か、カズ、三浦カズが割れた風船から登場した時のスーツか、などと推測しながら近づくとそれは金太郎の腹掛けだった。

 この腹掛けを見かけるのは端午の節句あたりが多い。それなのに今の時期になぜと考え、おそらくauの三太郎CMの影響で購入する人が増えたのだろうという結論に落ち着いた。相変わらずパーティグッズは何よりも世相を反映している。

 きっと余興か何かのために購入したのだろう。見るからに新品未開封であるから使用する前に落としたと考えられる。ということは金太郎に扮する予定だった落とし主はこの腹掛けなしで大丈夫だったのだろうか? おかっぱで全裸でさらに手にはまさかりという最高にやばそうなルックスで無事切り抜けられたのだろうか?

 ところで金太郎のことは誰もが知っているものの金太郎の話を正確に覚えている人は少ないと思われる。そういう私も幼い頃に読んだはずなのに覚えていない。

 熊と相撲を取ったシーンだけは覚えている。逆にそれしか知らない。つまり私の中では金太郎は相撲がメインの話で、金太郎が熊と相撲をとって見事勝利し、「俺はまだまだ強いやつと戦いたい!」とか「俺の相撲人生はまだ始まったばかりだ」みたいなセリフで終わった打ち切り漫画のようなものなのだ。だから敵だった熊が味方になることを知らない。熊を倒した後に出てくるはずの敵はシルエットでしか知らない。腹掛けは元々真っ白だったのに金太郎が猛特訓しているうちに血で染まって赤くなったという設定ももちろん知らない。ということは発売された単行本は1巻だけか。もしくは全2巻で2巻の後半に別の読み切りが収録されているパターンか。
 
 もちろんそんなことはなくきちんと続きがある。終了しても別の雑誌で連載が再開される漫画のように相撲の後も話は続く。しかし思い出せない。
 私は自力で思い出すことを早々に諦め、スマホで金太郎のラストを調べた。

『立派なお侍さんになった』

 そんな感じのラストだとわかった。残念ながら「ああ、そうそう、このラスト!」とはならなかった。これなら印象に残っていてもおかしくない。
 ただこのラストは汎用性が高い。例えば三太郎のひとりである桃太郎のラストは「鬼を退治して、財宝を持って帰ってきた」であるが、これに金太郎のラストを付けると、

『鬼を退治して、財宝を持って帰ってきた。そして立派なお侍さんになった』

 となり、金も名誉も何もかも手に入れた感が強くなる。最強のエンドになるではないか!
 三太郎のもうひとり浦島太郎のラストは「玉手箱を開けた浦島太郎はおじいさんになった」であるがこれにも金太郎のラストを付けると、

『玉手箱を開けた浦島太郎はおじいさんになった。そして立派なお侍さんになった』

 となる。バッドエンドのようだった浦島太郎の話に突如、未来と希望が加わる。玉手箱を開けて良かったと思えるではないか!

 こうやって道に落ちているものを見てあれこれ考える私も、のちのち立派なお侍さんになれますように。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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