よみタイ

せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、水菜の落とし物から、なぜかドラゴンクエストに思いをはせたファミコン世代の著者だが、今回は、エクステの落とし物を発見するや、なぜか自宅にかけこんだようで――

家に眠る「志村けん」似せのグッズに出合わせてくれたエクステ

怖っ! 都内の路上にて発見した髪の毛……ではなく、よーくみたらエクステだ!(写真/ダーシマ)
怖っ! 都内の路上にて発見した髪の毛……ではなく、よーくみたらエクステだ!(写真/ダーシマ)

ナンパ師という外敵から身を守るために、「自切」したのだろうか?

エクステが落ちているのを初めて見た。

最初はそれが何かわからずに足を止めた。何か怖いもののようにも感じた。よく観察してエクステであることを理解した。

私はエクステを使用したことがない。どうやって使うものなのかわからないし、歩いている時に落ちてしまうものなのかもわからない。もしかしたら若者が多く集まる街では落ちていることは珍しいことではないのかもしれない。

外敵から身を守るためにトカゲが尻尾を自ら切り離すことがある。「自切」と呼ばれる行為だ。それと同じ原理でエクステが落ちているのではないか、なんて突拍子もないことを考えたりもした。たとえばしつこいナンパから逃れるために自らエクステを外した、そんなことを思ったのだ。

その時、ふと思い出した。これに近いものが私の家にもあったはずだ、と。

しかしそれがなんだったか思い出せない。なんとなくボヤッとした像が浮かぶのだが、そこから先に進めない。これがもしも曲名ならば、歌詞を検索したり、曲名を教えてくれるアプリを使ったりすることもできるだろうが、そうもいかない。『エクステ 似たもの』と検索しても解決する気配はない。こうなると気になって仕方なくなり、私は家に帰ってさっそく探し始めた。

私はあまり物を捨てない。そのため押入れいっぱいに段ボール箱が詰まっている。しかも仕分けせずになんでもかんでも雑多に詰め込んでいるだけなので、どの箱になにが入っているのかわからない。ひとつひとつ開けて中身を確かめていかなければならない。

この作業をすると、今探している物以外を見つけて懐かしくなったり、出てきた本を読んだり、CDを再生したりしてなかなか進まないのが常だ。

そうやってゆっくりと作業をしていると、前々回の引っ越しの時から開けていない箱があって、その中に入っている予感がした。

その予感は見事的中。エクステに似たものはこれだったのだ。

著者宅の押し入れで発見! そうそう、これこれ!
著者宅の押し入れで発見! そうそう、これこれ!

商品名は『これだ!毛』。

どう見ても志村けんしか彷彿とさせないイラスト、それを裏付けるような「なんじゃらげ」「うんじゃらげ」の文字。これはもしかしたら志村けんの後ろ髪をイメージして作られた商品なのかもしれない。「OMOSHIRO PERFORMANCE」の文字もある。

裏には昭和を感じさせるイラストと使用例が書かれている。

“モミア毛”……。
“モミア毛”……。

たしかにその気になればTPOは自由であろう。

そして箱の中には色違いもあった。

リボンも違ってた。
リボンも違ってた。

まさか家に二つもあるとは。なぜ私は二つも買ったのだろう?

まあ、何はともあれ、二つあるということは、装着すればおもしろパフォーマンスが二回できるということだ。

そして切り離せば「居酒屋のご利用はいかがですか?」と話しかけてくる客引きから二回逃げることもできるのだ。

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

週間ランキング 今読まれているホットな記事