よみタイ

せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。

前回は、「金太郎」のパーティグッズを発見し、3太郎仲間の桃太郎と浦島太郎と妄想コラボした著者。
今回は、どこにでもあるお店の「営業中プレート」を発見した著者。しかしどこか違和感があったようで――

答えが誰でもわかる文字を隠した「木製プレート」の謎

都内の路上で発見した、一見なんのへんてつもない営業中の看板。(写真/ダーシマ)
都内の路上で発見した、一見なんのへんてつもない営業中の看板。(写真/ダーシマ)

答えが誰でもわかる文字を隠した「木製プレート」の謎

 以前この連載で『営業中』と書かれたアクリルのプレートについて書いた。ただ単に『営業中』だけではなく、『一生懸命営業中』だとか『心込めて営業中』などのバリエーションがあるという話もした。

 今回の落し物もまた『営業中』であるが、アクリルのプレートではなく木製である。

 特におもしろいことが書かれているわけでもなく、付け加えられている言葉は「いらっしゃいませ」と奇をてらったものではない。これがもしも『学生ノリで営業中』『心を入れ替えて営業中』『あの頃の気持ちで営業中』『親にやれと言われたから営業中』などだったなら興味を引く。学生ノリなら入りたくないし、心を入れ替えて営業中ならば試しに覗いてみたくなる。しかしそうではない。

 それなのに私はこの札に興味を持った。なぜなら営業中のところに何か貼ってあることに気づいたからだ。それはあれに似ていた……。

 例えばテレビ番組で池谷幸雄について特集していたとする。スタジオには池谷幸雄の半生が書かれた大きいフリップが用意されていて、略歴が書かれている。

1970年 東京都府中市にて生まれる
1988年 ソウルオリンピックに出場し団体総合で銅メダル、個人種目別ゆかで銅メダル
1992年 バルセロナオリンピックでは団体総合で銅メダル、個人種目別ゆかで銀メダル
1996年 池谷幸雄 渋谷の信号機で鉄棒
2007年 『池谷銀牙』でプロレスデビュー

 信号機で鉄棒したとか、プロレスデビューしたとか、「ああ、そんなことあったなあ!」なんて思いながら見ていると、次にこう書かれている。

2010年 参議院議員通常選挙比例代表区に民主党から立候補し、選挙カーの上で●●

 この「●●」のところには紙が貼ってある。見ている者は何と書かれているのだろうと気になる。
 司会者がその紙を剥がすと「選挙カーの上で倒立」と書いてある。
 
 そう、この札はそんなめくる紙が付いているフリップに似ていたのだ。
 ただ、このめくられた赤い紙の大きさ的に「業中」の二文字しか隠せない。つまり『いらっしゃいませ営●●』となるわけだが、これだと「営業中」しか答えはない。先の池谷幸雄の場合だと、選挙カーの上で「食事」「体操」「昼寝」「読書」「告訴」「工作」など様々な選択肢が浮かび、大喜利的なことも楽しめるだろう。しかしこの札の場合、それがない。

 なぜこんなわかり切ったフリップを作ったのだろうか? 隠す必要があったのだろうか?
 答えはわからない。落とし物はいつだって無言であるから、見つけた者が想像するしかないのだ。

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント
せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

週間ランキング 今読まれているホットな記事