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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、カードゲームの王様、トランプの落とし物から、落とし主を多角的に妄想した著者。今回は、コンビニの一番人気商品といえばこれ! の、おにぎりが落ちていたようで――

『おむすびころりん』のラストを、あなたはきちんと覚えているだろうか?

都内の路上にて発見したコンビニのおにぎり。最近はこうした変わりおにぎりも増えたものだが……。(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見したコンビニのおにぎり。最近はこうした変わりおにぎりも増えたものだが……。(写真/ダーシマ)

「おにぎり好き」といえば山下清だが、もちろん彼が落としたわけではない。

私はおにぎりが好きだ。しかしおにぎり好きと言えば山下清という絶対的な存在がいるからなるべく口に出さないようにしている。しかしおにぎりが好きなのだ。

おにぎりに巻かれた海苔がパリッとしていてもしてなくても、あるいは海苔がなくても構わない。おにぎりならなんでも良いのだ。

いや、強いて言えば海苔はしっとりしている方が良い。私が子どもの頃にはパリッとしたタイプのおにぎりが存在していなかったからかもしれないが、海苔が湿っていてほとんど米と同化しているやつが好きだ。

また、温かくても冷えていても構わない。むしろ冷えている方が好みかもしれない。私の故郷の北海道ではコンビニでおにぎりを買うと「おにぎりは温めますか?」と訊かれるのだが、余程でない限り温めることはない。

私は新幹線に乗る前にお弁当を買うことが多い。たとえば昼の新幹線ならば新幹線の中でお弁当を食べたいので午前中は何も食べずに新幹線に乗ったりする。お弁当を選んでいる時、おにぎりとおかず少々というタイプのものがあればそれは選択肢にずっと残るし、おにぎり専門店的な店舗があればついついそこへ行ってしまう。そこでおにぎりを二つ買うとしたならば、ひとつは定番の具のおにぎり、もうひとつは珍しいものを買うことが多い。

などという私の詳しいおにぎり事情はどうでも良い。とにかく私はおにぎりが好きであるから、おにぎりが落ちていたなら必ず足を止める。コンビニのおにぎりであれば必ずパッケージを見て具は何なのかを調べる。具がわかったところで何かするわけではない。珍しいタイプのおにぎりだったなら、レアなものを見た気がして少々嬉しいくらいだ。

おにぎりが落ちているといつも思い出すのは昔話の『おむすびころりん』だ。おじいさんが落としたおにぎりが転がり、穴に落ちることから始まる物語である。そのため落ちているおにぎりは穴に入り損ねたものなのかもしれない、なんてことを考える。

その後は決まって「『おむすびころりん』ってラストはどうなるんだっけ?」と思う。おじいさんも穴に落ちるとそこにはねずみがいて、くらいまでは覚えているのだが、そこからが曖昧だ。舌切り雀に似ていた気もするし、違う気もする。

スマホで調べればすぐにわかるだろうが、なんとか自力で思い出そうとする。そうしないと年齢とともにどんどんと記憶が衰えてしまいそうだからだ。とはいえ、思い出したことは一度もない。

もしもいつか『おむすびころりん』の絵本が落ちていたら、その時は見てみようと思う。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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