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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、レモンの落とし物から、梶井基次郎や長渕剛を妄想した著者。今回は、カードゲームの王様、トランプが落ちていたようで――

夢を諦めて故郷に帰ることになった悲しきマジシャンが捨てたトランプ?

都内の路上にて発見したトランプの7のカード。全然ラッキーじゃなさそう……。(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見したトランプの7のカード。全然ラッキーじゃなさそう……。(写真/ダーシマ)

落ちているカードでトランプをコンプリートできないものか?

トランプが落ちているとまず考えることは、「このトランプの持ち主、遊べなくなって困っているのでは?」ということだ。

7のカードが落ちていると、持ち主は『七並べ』ができないということになる。『七並べ』をやろうと盛り上がってトランプを並べた時になって初めて「7がない!」と気づくのだろう。また『神経衰弱』もできない。最後に7が一枚残った時になって初めて「7がない!」と気づくのだ。もちろん『ババ抜き』もできない。

6のカードが2枚落ちている場合、こちらも『七並べ』はできないものの、『神経衰弱』と『ババ抜き』はできないこともない。そのため、6が2枚足りないことに気づかない可能性もある。

6のペアも発見。人生をかけた『ポーカー』勝負に、このワンペアで負けた男のカード、かもしれない。(写真/ダーシマ)
6のペアも発見。人生をかけた『ポーカー』勝負に、このワンペアで負けた男のカード、かもしれない。(写真/ダーシマ)

次に考えるのが「なぜトランプが落ちているのか?」ということだ。

トランプには室内のイメージが強い。とはいえ、屋外でトランプを楽しむ人だっている。何かの列に並んでいる時に時間潰しで興じることもあるだろう。その人たちが片づける際に落としていった、あるいは忘れていったものがこのトランプ。真っ先に考えるのはこの理由だ。

トランプからはマジックも連想されるわけだが、マジックショー的なものを見に行き、マジシャンに「好きなカードを選んでください」と言われて手にしたものかもしれないと考えられる。しかし何らかの事情があってマジックショーは中断してしまい、手の中には返すタイミングがなくなったカードが残った。それをどうすれば良いかわからなくて帰り道にそっと捨てていった。そんな理由だ。

マジシャンといえばマジシャンを夢見ていた人のトランプの可能性だってある。マジシャンになるために修行を重ねてきたが、夢を諦めて故郷に帰ることになり、商売道具であるトランプを捨てたというわけだ。そんな物悲しい理由である。

捨てたのは子どもと考えることもできる。嫌いな友達のトランプ、あるいは好きな子のトランプを盗んでしまう。しかし、帰り道に怖くなって捨ててしまった。忘れていた遠い昔の記憶が蘇ってきそうな理由だ。

あまりにもトランプでばかり遊んでいるから、「勉強しないでトランプばかりして!」と親に捨てられたとも考えられる。私の世代だとファミコンでよくあった光景だ。もしかしたら子どもの頃のトランプマンはこの経験があるかもしれない。

今までの理由はトランプを知っていること前提で考えたが、そうではなくトランプを知らない人が捨てたという考え方もある。初めてトランプを手にした人が、同じ数字が書かれたカードを見つけ、「ダブってるよ……」と思い捨てたのだ。

こうして理由をいくつも考えた後、最後に私はこう考える。

「落ちているカードでトランプをコンプリートできないものか?」

その道は長くて険しそうである。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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