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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、イチゴと葉に込められた暗号を推理してみたが、今回は、なぜか季節外れの落とし物を発見! 

新年度が始まりそうな今でも、正月を永遠のものにしたいあなたへ。

杉並区下井草の路上にて発見。新年度スタートというのになぜいま?(写真/ダーシマ)
杉並区下井草の路上にて発見。新年度スタートというのになぜいま?(写真/ダーシマ)

爆笑問題がネタをやっている正月番組を見ればいつだって元気になれる、はず。

私は正月が好きだ。

あの非日常感が良い。正月の朝にいつもより澄んだ空気を吸って、この真新しさにいつまでも浸っていたいと思うのだ。また、12月になったあたりから「今から何かやり始めるより、新年から心機一転頑張ろう。その方がキリが良い」などと思い始める私にとって、正月のリセット感もたまらない。

とはいえ、特に正月らしいことをするわけではない。羽根突きをしたことはない。回すコマもない。カルタは持っているが遊ぶことはない。凧揚げは万が一高く揚げてしまった場合に注目を浴びることになりそうで怖い。強いて言えば初詣と餅を食べるくらいなのだが、とにかく正月に身を委ねていたくて仕方ない。

しかし、正月は永遠のものではなく、終わりがくる。少しずつ日常へと戻っていく。

朝の電車がまたラッシュになっていく。

銀行は通常営業に戻る。
かまぼこの値段が下がる。
テレビはいつもの番組に戻り、朝から駅伝などやっていない。
フジカラーのCMはもちろん、地元の企業の静止画のCMを見ることもない。
店のシャッターから「年始は〇日から営業します」と書かれたポスターが剥がされていく。
郵便ポストの投函口が通常になる。
もう福男は決まっているし、荒れた成人式も終わる。
年賀状はもう届かない。
餅売り場も沈静化している。

それでも私は正月を探す。少しでも正月を感じさせるものを求めて彷徨い続ける。

思えばクリスマスが終わり、世の中がガラリと年末モードに切り替わる頃が一番楽しかったかもしれない。テレビからは厄除け大師のCMが流れ、ゴミ集積所には年末年始の予定が貼られ、商店街の一角でしめ縄が売られ始め、ATMに長蛇の列ができる。どこからか聖書についてのアナウンスが聞こえてくることもあれば、第九が聞こえてくることもある。私は思い出に浸る。

そうしている間にも時は過ぎ、気づけば節分もひな祭りも終わり、スーパーではお彼岸に使うロウソクが存在感を示す時期になっている。受験シーズンも卒業シーズンも過去のものだ。さすがの私も正月を諦めようと思い、現実を受け入れようとする。

ところがだ。道に思わぬものが落ちていた。

それは紛れもなく正月飾りである。まさかこんなところで正月飾りに出合えるなんて。感動で私は立ちすくんだ。

そう、正月はまだ残っていたのだ。私は正月探しを諦めようとしていた自分を恥じた。

「きっと正月はまだ残っている。これからも正月を探そう!」

道に落ちていたもののおかげで前向きになる日が来るとは思ってもいなかった。

また負けそうになったら録画した正月番組を見よう。そこには正月がたくさん詰まっている。爆笑問題がきっとネタをやっているはずだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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