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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、もう落とし主はこの人しかいない象のジョウロを見つけた著者。今回は、名探偵よろしく落とし物に込められたメッセージを推理したが……。

“イチゴと葉”の暗号を推理して浮かんだ5つのこと

杉並区下井草の路上にて発見。いったい何のメッセージがあるのか?(写真/ダーシマ)
杉並区下井草の路上にて発見。いったい何のメッセージがあるのか?(写真/ダーシマ)

もしや、ソフトバンク千賀投手のメッセージなのか!?

イチゴがあった。アスファルトの上で赤さが際立っていて、私は思わず足を止めた。

以前、道に食べ物があったならそれは罠の可能性があると述べたが、生鮮食品の場合はごんぎつねのことを思い出す。ごんがこのイチゴを置いていった、なんてことを考えてしまう。

「ごん、おまえだったのか。いつも、イチゴをくれたのは」

そんなラストまで想像すると、火縄銃の青い煙まで見えてきて、ただただ悲しくなる。

しかし今回はイチゴだけではなく、そのそばに葉が一枚ある。自然なようでどこか不自然にも見える。もしかしたらこの組み合わせに意味があるのかもしれない。たとえば暗号になっていて何らかのメッセージが隠されている、なんてことがありそうだ。

私はイチゴと葉を手がかりに早速推理を始める。気分は山根あおおに先生の漫画『名たんていカゲマン』の影万太郎だ。

「カゲマン……」

自分で考えたことなのに、あまりの古さに愕然とする。カゲマンが何か知らない人もいるだろう。私でさえ「そんな漫画あったなあ」と思うほどだ。小学生の頃に読んだ記憶があるから1980年前後のことで、よく思い出したなと感心すらする。イチゴが落ちていなかったら一生思い出さなかったはずだ。

こうやって古いことばかり考えていたらどんどん歳をとっていく気がしてしまう。せめてカゲマンではなく、『金田一少年の事件簿』や『銀狼怪奇ファイル』など、新しいものを考えるようにしなければいけない。などと思ってみたもののそれらも結構前の作品であり、そのことにまた驚き、不意に時の流れを突きつけられたようで眩暈めまいすらした。

そんなことより今は推理に集中だ。推理に集中すれば眩暈も忘れるはずだ。

イチゴと葉。イチゴを数字にすると「15」となり葉は「8」となる。ふたつを組み合わせると「158」。そしてここは道路。

「つまりこの道は国道158号線であるというメッセージなのだ!」

などという推理は大ハズレだ。国道158線は福井県から岐阜県を経由し長野県へ至る道路であり、ここは東京なのだから。

私は落胆することなく別の推理を始める。スマホで「158」を検索してみる。するとソフトバンクの千賀投手が阪神とのオープン戦で自己最高の158キロを出したというニュースが出てきた(※3月2日)。

これが隠されたメッセージなのか? いや、このニュースを伝えるためにわざわざイチゴと葉を使ったとは考え難い。さらに調べていくと『るろうに剣心』に出てくる緋村剣心の身長が158センチということもわかったのだが、それも暗号にしてまで伝えたかったとは思えない。

推理は早くも行き詰まってしまう。私は現状を打破するために数字を入れ替えてみる。葉を前にして「815」という数字を作る。これは福岡県の郵便番号の最初の3桁だ。

「つまりここは福岡県なのだ!」

などということもなく、何度も言うがここは東京だ。

もしかしたら葉ではなく葉っぱということで「88」という表記なのかもしれない。となると今度は「1588」という4桁の数字ができあがる。

早速「1588」で調べると、1588年に豊臣秀吉が刀狩りを発令したことがわかった。もしもここが教室ならば、生徒がカンニングに利用するためにイチゴと葉っぱを置いたと考えることができるが、ここは学校の中ではない。カンニングとは無縁だ。ならば次の推理を……。

しかし私はカゲマンを無性に読み直したくなってしまって、推理に集中できなくなってしまった。調べると新刊では入手できないようなので、古本屋へと向かうことにして、イチゴと葉を後にした。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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