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セルフケアは大切!【逃げる技術!第12回】不調があれば通院を

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

ケガや心身の不調があれば、適切なクリニックで受診を

DV被害者には、長年の暴言や過労、モラハラによって心身にダメージが蓄積し、病気や体調不良となって現れることがあるようです。わたしもその一人です。

20代後半で結婚するまで、病院にいくといえば、冬場に風邪をひいて職場近くのクリニックにパッと飛び込むくらいでした。せいぜい年に数回の通院だったのです。

それが頻繁に病院通いをするようになりました。一例を挙げると、小児喘息の既往もなかったのに、30歳で気管支喘息になりました。他にもさまざまな薬が手放せない生活になりました。

夫からは「病気のデパート」「お母さんは病弱で困るねぇ」「本当にズボラでがさつでポンコツだ」と子どもの前でいわれていました。

とにかく体がしんどくて毎日がギリギリでした。休日に頭痛がひどくて横たわっていると「何やってんだ! どこにいるかと思ったらこんなところでサボって! 起きろ! ほら!」と起こされます。

こんなふうに子どもの前でパートナーの悪口を常習的にいうことは「面前DV」といって、実は子どもにとって「虐待」にあたります。また、体調不良なのに休ませないことは「身体的DV」です。でも、当時のわたしにはその知識がありませんでした。

DV避難を決めてからは、夫と同居しているうちに診断書を書いてもらっておいたほうがよいのかもしれないと考え、家出の準備期間中に複数のクリニックにかかりました。

長年通っていた診療所の主治医には「実はDVがありまして……」と説明しました。またそれまで受診していなかった不調もあったので、新たに初診でかかったクリニックもありました。

実際のところ、もう1年も続いている離婚調停で、このとき取った診断書は使っていません。もしかすると今後、離婚訴訟(裁判)になれば使うこともあるのかもしれませんが、それもまだわかりません。

Tips 46
長年のDVの結果、体調不良や病気になるのは珍しくありません。ケガや不調はクリニックにかかって診察の記録を残しましょう。

初診日を残しておくと、のちのち役に立つことも

クリニックにもよりますが、診断書には1枚あたり5,000円程度かかります。診断書をもらわなくとも、診察や検査を受けるだけでもよかったのかもしれません。初診日や診察日がカルテに記録されていれば、のちに必要になった際、5年程度であればクリニックでさかのぼって照会できるからです。

DVと病気の因果関係は、医師であっても断言できないことが多いでしょう。それでも「○○という症状が○○の期間にわたって見られる。一通りの検査をしたが、原因はわからなかった」(=器質的な原因は不明なので、もしかすると精神的ストレスが原因かもしれない、という推測の根拠にはなる)という診断を受けておくことは可能ですし、意味のあることだとわたしは思います。

なお、パートナーの入っている健康保険組合の被扶養者保険証を使っている人であれば、家出によってそれが使えなくなる可能性もある第5回参照)ので、その点も気をつけて下さい。家出する前に受診したり、健保実施の人間ドックや健康診断を受けておくほうがのちのち助かることもあるでしょう。

Tips 47
不調やケガは見過ごさずに受診することをおすすめします。できれば診断書の取得も。「初診日」が年金や保険の請求などで重要になることもあります。

不眠、めまい、抑うつ、無気力などはありませんか?

DVやモラハラのある暮らしを送っていると、セルフケアは後回しになりがちです。でも、いまの生活を脱出したいと考えているのなら、健康が何よりの資本。自分自身を大切にすることを意識してみませんか?

起きられない、眠れない、以前ならできていた家事や仕事ができなくなった、といったメンタル不調なら精神科へ。生理痛やPMSが悪化した、不正出血が続く、といったことなら産婦人科へ。味がわからなくなったなら内科へ。めまいや耳鳴り、聞こえづらさなら耳鼻咽喉科へ。咳が止まらない、胸が苦しいといったときは内科か呼吸器科へ――(すべてわたしが結婚生活で体験したものです)。

これらはほんの一例です。もちろん別の診療科で病名がつくこともあるでしょう。気がかりがあれば、ぜひためらわず受診することをおすすめします! 投薬や治療で痛みや症状が和らぐことは多々あります。医師や看護師に症状を聞いてもらうだけでも少しラクになることもあります。

いつのまにか「ゆでガエル」つらさや痛みが麻痺

DVやモラハラを日常的に受けている状態は「ゆでガエル」に近いのかもしれません。少しずつエスカレートしていくため、被害者はいつしかグラグラ煮立った鍋の中にいるのに気づかないのです。

わたしがそうだったように「客観的に見てヤバい水準にあるのかどうか」すらわからなくなってきます。診察記録を残すという意味だけでなく、あなた自身を大切にするために、客観的な目で他人から見てもらうために、早めの受診は重要です。

Tips 48
DV、モラハラのある生活を送っていると、自分の痛みや疲労に対して鈍感になっている可能性もあります。
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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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