2024.3.18
DVの3段階のサイクル【逃げる技術!第11回】ハネムーン期って何?
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暴力の小休止、ハネムーン期
それから相談員さんは、DVサイクルの3番目を教えてくれました。
「暴力がバーンと外に出ると、加害者はストレスを発散させてスッキリした状態になります。ここからが③ハネムーン期です。急に優しい態度をとり、プレゼントを買ってきたり、『本当は愛している』『自分は変わった。二度とあんなことはしない』などと甘い言葉をかけて、被害者が逃げないように引き止めます。
しかし、またすぐに①緊張期に戻り、イライラ、ピリピリした日常が始まります。被害者は加害者に気を遣って生きていくことになります。このサイクルをくりかえし、少しずつDVは悪化していくんです」
DVは緊張期→爆発期→ハネムーン期のサイクルを繰り返して悪化していく。
①緊張期はイライラ、ピリピリ
②爆発期には、精神的・肉体的な暴力
③ハネムーン期は束の間の平和。加害者は優しく「もうしない」と誓う
しかし約束が破られて、①に戻る
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まさに「DVのサイクル」の見本通りだった結婚生活
相談員さんの説明は、まさにわたしと夫との15年間そのものでした。
「その通りです。わたしが家出したあとなど、夫はよく花束を買ってきました。青山フラワーマーケットや日比谷花壇とかのじゃなくて、その辺で買った適当な花束です」
そして、言葉少なに――つまりきちんとした謝罪はせず――おずおずと花束を持って近づいてきて、少年のようにモジモジとし、許されようとするのです。
そのように、ブチギレたあとの数日間は穏やかです。妙な話ですが、幸せを感じるほどです。だって普段のように怒鳴られたり、叱られたり、無視されたりしないのですから。
そして、ああ、つきあいだした頃の夫に戻ってくれた、これが本来の姿だ、ストレスや仕事のプレッシャーで一時的におかしくなっていたのかも、こちらにも悪いところがあったのでは……そんなふうにわたしは、都合よく自分をだましてしまうのです。
なぜ自分をだますのでしょう。それはおそらく、暮らしを変化させること、相手から逃げきって新しい生活を始める大変さに比べたら、我慢して日々を過ごしていく惰性を選ぶほうが、つらくてもある意味「ラク」だからなのだと思います。
DV被害者は、「ハネムーン期の加害者こそ本当の姿だ」「相手を怒らせた自分にも落ち度がある」と思って関係を維持しまいがちです。その忍耐により、DVはエスカレートしていきます。
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でも、夫はすぐに元通りです。
不機嫌、怒声、無視。人を「ポンコツ」「ブタ」と呼び、こづきます。わたしは声をふりしぼって――意見をすることはおそろしく、何度も心の中でリハーサルをしてから――思いきって伝えます。
「そういうことされたら、イヤだ」
すると、ヤンキーみたいにすごまれます。
「ああん? 文句あんのか?」
「こないだ(ハネムーン期に)、もうそういうことしないって約束したじゃん」
「え? そんなこといわれたら俺、家に帰ってきたくなくなるけど?」
「……(帰ってこなくていいのに)」
「おい。人の粗探しをして、離婚の準備でもする気なのか!」
こうやって逆ギレするのです。
相談員さんは、うんうんとうなずきながら
「いまセイラさんのおうちは爆発期の手前なのでは、という気がして心配なんです。DV加害者は相手の逃亡を察知すると、激昂することがあります。それで避難できなくなることもあるんです。
家出が未遂に終わると、逃げる力を奪うために、罰するために、DVがますますひどくなることが多いでしょう。だから気をつけて下さい。警察にも事前に連絡をしておいたほうがよいですよ。
また、ここから先は家出するその日まで、気取られないようにしてください。態度を軟化させて夫さんに『いつも通りの日常だな』と思わせたほうが安全ですよ」
DV避難を決心したら、発覚回避のため、当日まではあえて穏やかに過ごす。
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次回はわたしが家出前にしたことの一つ、「通院」について書きます。DVを受けているとセルフケアや定期検診はおろそかになりがち。でも、避難では身体が何よりの資本です。また、ケガや病気の記録はのちのち離婚や裁判の際に証拠になる場合も。自分を大切にすることは、とても大切なのです。
当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は4月1日(月)公開予定です。
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