2023.11.6
殴る蹴るだけがDVじゃない【逃げる技術!第2回】あなたの周りにも隠れ被害者はいませんか?
ジージーと鳴くセミの声のようなものが、耳元でずっと聞こえていた
去年のわたしと、一昨年のわたしの姿を思い返してみます。つねに疲労感でいっぱいで、毎晩、最大処方量まで抗うつ剤を飲んで、のろのろと家事と子育てと仕事をする。耳元でずっと、セミの鳴く声のように「シニタイシニタイシニタイシニタイ」という音が聞こえているのです。
そして夫から「あーあ、セイラちゃんってむかしはあんなに冴えてたのに、いまはホンットにダメだね〜」とくすくす笑われる。そんな暮らしを子どもを産んでからの7年間、続けてきました(それ以前からモラハラはありましたが、出産を機に激化したのです)。
精神科の主治医にそのことを話せるようになると、「あーはいはい、希死念慮ね」と言われました。そうか、そういう状況だったのか、とやっと自分でもわかりました。自治体のソーシャルワーカーの方には「これだけのことをされて、よく死にませんでしたね」と言われました。渦中にいると意外とわからないものなのです。
ところが、その2年ほど続いていた絶え間ない「声」は、家出をして夫から物理的に離れると10日ほどで消えました。もちろん、それがときどき首をもたげることはありますが、いまは子どものためにも自分のためにも明るく暮らしたい、という前向きな気持ちですし、毎日が楽しいのです。
わたしが自分の状況に気がついて逃げる段になってから、何人もの友人に「実は、セイラちゃんちのこと、ちょっと気にはなっていたの」「でも夫婦のことだから、口出ししちゃダメかなと……」「ワンオペなのにいつも旦那さんに叱られてばかりで、かわいそうだった」「こんなこと、後出しみたいに伝えて申し訳ない」といわれました。
わたしは見た目上、問題のない家庭を演じきれているつもりでしたが、そこはかとないモラハラの香りがいつのまにか染み出してしまっていたようです。
モラハラやDVを働く人物から、物理的に距離を置くことが重要です。
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時にはおせっかいも大切
プライバシーを重んじる現代ですから、よそのご家庭への口出しは躊躇してしまうでしょう。でも、もしあなたがお友達やお知り合いの様子に「おや?」と違和感を覚えることがあれば、ぜひご本人に伝えてあげてください。他人に指摘されることで、その環境を抜け出るきっかけをつかむことができるかもしれません。
DVを受けている側には「みじめな自分を認めたくない心理」が働くので、「そんなことない!」「大丈夫!」と強く否定するかもしれませんが、いろんな人から言われるうちに、心の扉が開いていくものです。わたしがそうでした。
最初に「セイラちゃんの旦那さん、おかしいよ。子どもに対してもおかしい。わたしだったら絶対に離婚するね!」とはっきり言ってくれていた二十年来の友人は、わたしが愚痴をこぼしながらもいつまでものらりくらりと結婚生活を続けていることに激怒して、「もうつきあいきれない」と絶交を宣言しました。
そのときは軽く衝撃を受けましたが、いまは彼女に感謝しており、また愚痴ばかり聞かせてしまって大変申し訳なかったと思っています。
抜け出すためには、ぜひ第三者に相談を
いま書いた「絶交」というインパクトの強い出来事は、のちに家庭の実情を他人に打ち明けるきっかけとなりました。久しぶりに会った同業者に、カフェでコーヒーを飲みながら笑ってわたしは話したのです。
「夫の愚痴をこぼしすぎちゃって、二十年来の親友に絶交されちゃったんですよ〜」と。内心とてもさみしかったのに、あはははと自虐を交えて話しました。
するとその相手から「藤井さん、それってDVじゃないですか?」と指摘されたのです。それはあまりにも意外な、でもとても納得のいく一言でした。あ、これってDVって思っていいのかな、うちってやっぱりおかしいのかな、と他人に言われて初めて感じることができたのです。
そのあとも彼女はLINEで話を聞いてくれて、夫がやつあたりで娘の頭を叩いたときには、自治体窓口の電話番号をシュポッと即座に送ってくれました。
当時のわたしはとても視野が狭まっていて、調べ物をするにもすごく時間のかかる精神状態でしたので、そういった窓口があることもよくわかっていませんでした。適切な窓口に相談することができて本当によかったと感謝しています。
こうして、結婚15年目にしてダムが決壊するように、ガラガラと日常が崩れていきました。そこにはヒリヒリとした痛みや鬱屈した怒りもありましたが、子どもの頃に観た『インディ・ジョーンズ』で、洞窟で巨岩に追いかけられて逃げるときのようなスリリングさもありました。
警察にも自治体にも「お子さんに危害が及ぶ可能性があるので、逃げてください」といわれ、途中からは児童相談所も登場して焦りました。それからは、いかに夫から逃げるかドキドキしながら過ごす日々でした。
いっぽうで当時のわたしは、「きっと行動に移して訴えれば、事の重大さも彼もわかってくれるだろう」と夫に対する期待もまだまだ持っていたのです。次回はそのあたりのお話から書いてみたいと思います。
モラハラ、DVの相談先を探すときの、おすすめの検索ワード例です。
・「自治体名 福祉課 DV」
・「都道府県名 配偶者暴力相談支援センター」
・「都道府県名 女性相談センター/女性センター」(男性センターのある地域もあります)
・「自治体 警察 DV」
・「自治体名 法務局 人権」
▼こちらのリンクもどうぞ。
内閣府のDV相談+(プラス)
電話は24時間受付、チャットでの相談もできます。
NHK福祉情報サイト ハートネット「もしかして精神的DV?」
当連載は毎月第1、第3月曜更新です。次回は11月20日(月)公開予定です。どうぞよろしくお願いいたします!
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