2024.3.12
【中村憲剛×田中ウルヴェ京対談 前編】指導者や親は子どもたちに“感情のおなら”を出させてあげることが大切
ソウル五輪シンクロナイズドスイミング(現:アーティスティックスイミング)デュエットで銅メダルを獲得し、指導者を経て現在はスポーツ心理学者、また報道番組コメンテーターやラジオパーソナリティなど多方面で活躍されています。どのように選手たちの才能を伸ばしていけばいいか、指導において大切にしたほうがいいのは何か――。昨年12月に、国内最高位となるJFA(日本サッカー協会)公認S級ライセンスの国内講習を終え指導者の道を進む中村さんと、日・米・仏のシンクロ代表チームコーチを10年間務めたウルヴェさんが“指導論”を熱く語り合います。
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷貫)
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指導者こそ自分の感情や考え方を知る必要がある
中村
京さんとの最初の出会いは、昨年、JFA(日本サッカー協会)公認S級ライセンス講習で講師として来られたとき。川崎フロンターレで後輩だった武岡優斗が京さんと知り合いであることは彼のSNSを通じて知っていたので、講義のときに挨拶して。優斗に「講義がメチャメチャ、タメになった」と伝えたら、そこから3人のLINEグループをつくって、いろいろとやり取りさせてもらうようになったんですよね。
ウルヴェ
憲剛さんのことは、私のことを“東京のおかん”と言ってくる優斗から事前にいろいろと聞いていました。「すごく尊敬している人だ」とも。憲剛さんのことを、さすがなだなって思ったのはLINEグループで、ちょっと真面目な質問をしたことがあって。憲剛さんは、どう答えるのかなって3段階くらいの答えを想定していたら、その上を超えていくような回答をいただいて。
中村
そんなことありましたっけ?
ウルヴェ
私も実は具体的な内容までは思い出せないんだけど(笑)。急に深いLINEのやりとりになったことはよく覚えています。「憲剛さんって凄いな」って。
中村
京さんの話は本当に興味深くて。講義のときも、川崎フロンターレや日本代表で勝っている時期、逆に勝てない時期のメンタルとか、気持ちの持ちようを振り返る時間にもなりました。僕自身、我流でのメンタルコントロールでしたし、出てくる感情を否定するんじゃなくて受け入れたうえで何をすべきかって思いながらやってきました。これは(ストレスに対処する)「コーピング」って言うんだなとか自分のなかで答え合わせしつつ拝聴してました。現役のころからもう少し、こういう観点があったらさらに良かったなって感じましたね。
ウルヴェ
指導者になる方は、まず自分の感情や考え方を知っておいたほうがいいんです。選手を育てるためだけでなく、自分自身の心と体を管理していく必要がありますから。そのために(講義の)前半は現役時代のことを振り返ってみましょう、と。そして後半は、選手たちのメンタルをどのように見ていくかについて、でした。人それぞれ、やる気の種類は違うし、コミュニケーションの取り方も違う。自分のことじゃないから余計に難しい。だから、「ちゃんと悩む」というのが実は指導者にとっても重要なんですよね。
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指導者になって3年間、どうすればいいか悩み中です
中村
絶賛、悩み中です。指導者としての現在は、古巣であるフロンターレのアカデミーの選手たちに教えることが中心なんですが、僕が30年間いろんな経験をしたうえでたどり着いた考え方、やり方があるわけじゃないですか。それを10代の選手に「この時はこうだよ!」とポンって教えたら、無駄がなくなりすぎるんじゃないかって。
もっと苦労させたほうがいいのかなって思う場合もあれば、逆に教えちゃったほうがいいのかなと思うときもあります。(指導者になって)3年間、どうすればいいかってぐるぐる頭の中が回っちゃっている感じなんですよね。
ウルヴェ
今はどうですか?
中村
そのときの自分の気持ちと、選手の状態に合わせたやり方にしてみようって、あまり「こうだ」って決めつけずにやっています。
ウルヴェ
私もありましたね。現役を引退して日本代表のアシスタントコーチを始めたとき、良かれと思って、現役時代にオリンピックまでの過程で学んできたものを、ポンポン選手に投げちゃった。自分からしたらギュッと凝縮した完璧なダイヤモンド。長く積み上げて磨いてきたものを、短期間でやれちゃうみたいな感じで。まあ、そのやり方が結局は間違いだったんですけど。
中村
どういうところが間違いだと思ったんですか?
ウルヴェ
そのやり方で良かった選手もいました。一方で、まったくダメだった選手もいて。私は、「ダイヤを受け取れなかった、その選手がダメ」みたいに考えちゃっていた。「私はこうやってメダルを取ったんだから、あなただってこうやれば取れるのよ」って感じで。
サッカーと違って相手によって技術を使い分けなくていいクローズドスキルの競技だからこそ、余計にこれさえやればいいという思いが強かったんです。指導者としてそんな失敗が凄くあって、その辺りから(指導法に)悩んで、結果的にスポーツ心理学を学ぶことにつながった。だから、憲剛さんの今の気持ちはよく分かるなあ。
中村
京さんが言うように、選手たちにハマらない可能性があるなって考えると簡単に声を掛けられないんですよね。その結果、今は、あまり決めつけずっていうことと、言葉じゃなくて一緒にボールを蹴ることで(プレーを通じて)伝えてみようかと。外から見るのと、中に入って見るのでは「見え方」が違うことにも気づいたんです。自分の限界域を思い出すこともできて、掛ける言葉も違ってきましたね。
ウルヴェ
シンクロでもそう。水の中でどんなふうに手を動かしているかとか、背中がどんな動きになっているかとか中だとしっかり見える。それ、私もやった(笑)。それに見えるというのは体の動きだけじゃないんですよね。
中村
そうなんです! 選手がどういう準備をしているか、どういう考え方を持っているのか、そういったことも入ってきやすいですよね。まあ現役から3年経ってちょっと太ってきているので、汗かいたほうがいいかなっていうのもあったんですけど(笑)。
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