2021.12.18
【中村憲剛×横田真人対談 後編】 人を見て選択肢をどれだけ与えられるか? 理想とするコーチング論
コミュニケーションの量と質の問題
中村
選手とは普段どういったコミュニケーションを?
横田
コミュニケーションの量自体、そこまで多くありません。中長距離の選手はトラックをずっとグルグル走るので、一度走り出すと話かけられないんです。だから練習が終わってから少し話すくらい。量は取れないけど、質を増やすようにしています。
中村
質というのは、競技以外の話もするってことですよね?
横田
まさにそうです。セカンドキャリアの話だったり、飼っている猫の話だったり、次のイベント企画の話だったり……。競技の話しかできないとなると、悪いときに悪い話しかできないんです。こちらがたとえポジティブなことを言っても、選手も馬鹿じゃありませんから“この人、無理やりポジティブなこと言ってるな”って見透かされてしまう。だったらほかの話をしてあげたほうがいい。
中村
なるほど。
横田
選手によってスイッチは違います。一度ほかの世界をつくってあげたほうがいい選手もいれば、競技にだけ集中したい選手もいる。つまりコーチである僕のなかで選択肢が多いことが大事だと思っています。たとえば、接地の仕方を具体的にこうしたほうがいいとアドバイスすることも大事ではあるんですけど、それだけでいい成績を残せるほどトップ選手は簡単じゃない。どちらかと言うと、メンタルやコンディションを整えてあげるほうがいいのかなって。個人競技だからできる部分もあるとは思います。
中村
サッカーでも指導者やチームメートと大事な話をするときは大体1対1です。僕も現役時代、後輩にピッチでアドバイスをして、彼らからの考えも聞いて考えを刷り合わせた後はそこでその話はもう終わりにして、ロッカーに戻ったら「家族元気?子供どう?」と家族や子供の話をしたりとか、趣味の話をしたり聞いたりなどたわいも無いやりとりをするようにしていました。
横田
似ていますね。
中村
フロンターレの鬼木(達)監督もそうでしたよ。プレーのことをあれこれ話した何分後かに家族の話になったりとか(笑)。僕も横田さんじゃないけど、人と人とのつながりを大切にする指導者になりたいなとは思っています。そのプレーの裏側にある背景や、選手の性格みたいなところまで目を向けることによって、選手のほうもグッと前を向くことがあるので。コミュニケーションって量も大事ですけど、やっぱり質ですよね。
横田
コーチングは信頼関係なくして成り立ちませんからね。
中村
まさにそこだと僕も思います。
横田
短期的に結果を出すなら、あれこれ詰め込むだけでもしかしたらいいかもしれない。でもそこに僕は興味がないんです。繰り返しになりますけど、長く活躍できる選手になってほしい。そのためには信頼関係が根底になければならないし、それを築いていくには、いいコミュニケーションがないといけない。
中村
(指導者に)今話かけてほしいなっていうタイミングで話かけてくれると、信頼感が増しますよね。
横田
はい。でも、それが難しいんですよね。
中村
もちろんこれも人それぞれ。常に話かけてもらいたい選手もいれば、逆に、そっとしてほしいと思う選手もいますから。ただ、サッカーってパフォーマンスを見れば「悩んでいるな」とか「うまくいっているな」とかだいたいわかるんです。だから、うまくいってないときに話かけると、その言葉が結構効いたりするっていうことはよくありますね。団体スポーツのサッカーだからできることなのかもしれない。練習、試合とずっと一緒ですから。個人競技の陸上だとちょっと難しいのかも。
横田
だから恐る恐る聞きますよ。本当に(見極めが)難しいんです。
中村
(話す)タイミングって大事ですよね。今、日本代表にいる守田(英正)や(田中)碧には、同じ中盤なのでいろいろと言ったときもあれば、ほったらかしたときもある。(情報を)与えすぎて混乱しちゃうこともありますから。言うタイミングはものすごく考えていました。
横田
うちの所属選手でフロンターレサポーターの卜部がよく言っていました。「憲剛さんはほかの選手のことをメッチャ見ている」って。
中村
卜部さんこそよく見てますね(笑)。
ちゃんと見ていないと、その選手のことがわかりませんから。かつ、本気でその選手に対して良くなってほしい、という熱量で話をしたらそれは絶対に伝わるし、信頼してくれます。
横田
僕は卜部に対して「どうしてあなたに憲剛さんのことがわかるんだ」って思いましたけど(笑)。
中村
そう見てもらっているだけでうれしいですよ(笑)。