2021.11.13
【中村憲剛×廣瀬俊朗対談 前編】大学、社会人、プロ…常にキャプテンだった二人のリーダーシップ論
ラグビーとサッカーで異なるキャプテンの役割
中村
一つ聞いていいですか? 東芝や日本代表で、試合前日に、選手で輪をつくってスパイクを磨くっていうことを廣瀬さんキャプテン時代にやっていた、と。
廣瀬
そうです。試合に対する準備をみんなで楽しくやりたいっていうところが一番の狙いですね。みんなで一緒にやるその空気感がいいし、心も整ってきて“明日このスパイクを履いて、仲間と頑張ろう”って思えるので。それと試合前は相手チームと並んで入場するんですけど、相手のスパイクより自分たちのほうがきれいだったら、自信を持って試合に入れるんですよ。自分たちを信じて戦おうというところに持っていける。
中村
深いですね。サッカーは(スパイクを)磨いてくれる用具係の方がいるので、その発想が浮びません。
廣瀬
ちゃんとそういうスタッフがいますもんね。
中村
「場をつくる」というところだと、サッカーの場合は選手ミーティングとかありますけど、僕はいつもそれは最終手段だと思っていたんですよね。
廣瀬
と言いますと?
中村
選手ミーティングをやるという時点でかなり追い込まれていると思うんですね。なので、ここで選手ミーティングをやってもし結果が出なかったら、いよいよ戻れない。だからやるタイミングがものすごく難しいんですよ。選手のなかではやりたくないっていう選手もいるし、まだ(ミーティングをやる)その状況じゃないでしょっていう選手もいますから。それにラグビーのキャプテンと比べると、サッカーのキャプテンは裁量がそこまで大きくない感じがありますよね。ラグビーでは、監督の役割もあるじゃないですか。だけどサッカーはプレーヤー寄り。
廣瀬
試合前日はキャプテンがトレーニングを仕切る“キャプテンズラン”という慣習がラグビーにはあります。確かにサッカーのキャプテンとは求められるところが違うかもしれません。
キャプテンと監督との関わりは世代で変化する
中村
ラグビーの場合、ヘッドコーチ(監督)とはどんな関係性を?
廣瀬
“全体最適”をどう担うかっていう思いがヘッドコーチにもキャプテンにもあるわけです。そこに一緒になって向かっているなという実感があれば、チームメイトにも「コーチはこういう思いでやっている」と伝えることで「じゃあ頑張ろう」となる。コーチの考えを咀嚼して伝えるというのはよくやっていましたね。
中村
僕も、当時は監督の、“通訳”をある意味やっていましたね。新加入選手に、どういうふうにやるとか伝えるのは自分の役割だって勝手に思っていましたから。新しくきた選手に活躍してもらいたい、長くフロンターレでやってもらいたいという思いがあるからこそですけど。あと、この話に関連すると20代のときのキャプテンと、30代になってからのキャプテンでは監督との関わり方も変わったように思います。
廣瀬
興味深い話ですね。
中村
今思えば、20代の頃はチームを勝たせるためにまずはプレーで引っ張るんだという気持ちの方が強かったと思います。30代に入ってからは監督とのコミュニケーションがより密になっていきましたよね。それこそ監督から「アイツどう?」と聞かれて答えたりとか。みんなをいい方向に持っていくために(監督、チームを)フォローしていくのがキャプテンかなって思うようになりました。
廣瀬
僕も最初は自分のスタイルの確立とかプレーで引っ張っていこうとか、キャプテンとして認めてもらおうというところに割とフォーカスしていた気はします。ただ段々と自分のリーダーシップが確立されていくと、あの選手どうサポートをしようかとかいう感じになっていきましたね。
中村
自分のなかでも模索というか、最終的に“キャプテンとは何ぞや”と思いながら引退しているところはあります。答えが出なかった。廣瀬さんの研究で早く解明していただかないと。
廣瀬
範囲を狭めないと研究になりにくいのでまずはラグビー限定にしていますけど、興味や関心はいろんなスポーツに広げていきたいと思っています。
(後編に続く)
さらに深まるキャプテン対談。後編は11/20(土)午前9時配信予定です。お楽しみに!
(取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)