よみタイ

美容院探しとヘアスタイル

 私がショートにする方向でとお願いすると、再び髪の毛を触りながら、
「白髪もきれいに入っているし、髪の毛の質自体も問題ないし、白髪染めはする必要が全然、ないわね。カラーリングにしても、一般的な茶色は似合わないから、どうせやるんだったら、こっち系のほうが似合うと思う」
 彼女は自分の頭を指さした。
「そうなんです。どうせ染めるんだったら、ピンクにしたい」
「そうそう」
 私は白髪を隠すためのカラーリングはする気はないし、どうせやるならピンクと決めているのだが、もう少し白髪を増やしたいので、しばらくはこのままで様子を見たい。先に延ばしたほうが、楽しみが増えていいのだ。

 この店ではカットとセットになっているのでシャンプーもお願いしたのだけれど、頭がくらくらすることもなく、とても丁寧だった。それも今までされたことがないような優しい洗い方なのに、後がさっぱりする。頭を力強く揺り動かさなくても、ちゃんと洗えるのだなとわかった。彼女によると、髪の汚れは揉み出すのではなく、指先で搔き出すようにするといいと、洗い方を教えてくれた。
 私のもともとの癖を活かすようにカットしてくれた後、
「シャンプーはどうしますか?」
 と聞かれたので、お店で使っているサロン用のストックをひとつ譲ってもらった。
「次に来るとか来ないとか関係なく、肌に合わなかったら持ってきて。引き取りますから」
 私の髪の毛の癖を殺して、縮毛矯正しているのかと間違われるような状態になるシャンプーはもう使う気にはなれないし、洗い上がりも気持ちがよかったので、しばらく使ってみることにした。 
 それからそのシャンプーを使い続けているが、ぺったりとしていた髪もだんだん元に戻ってきた。多少、サイドが跳ねる癖は相変わらずだが、以前のようにひどくはない。前の店ではカット時間が三、四十分ほどだったが、今はシャンプーの時間もあるけれど、一時間半以上かけてやってくれる。
 毛だらけのケープは問題だが、前に通っていた店が悪いわけではなく、そういった店でほっとできる客も多いはずだ。細かいことには頓着せず、ヘアスタイルを変える気持ちもなく、ずっと同じなのが安心で、関心のある話題を提供してくれる。そういった変化のない店もあっていい。でも私には合わなかった。というか私がその店のやり方に合わなかったのだろう。
 外見を気にしすぎて、過度にダイエットや美容にのめりこむのはどうかと思っているけれど、私は六十代後半だが、ヘアスタイルを変えたいときがあるし、少しでもましになりたいと思っている。プロにはそれをわかってほしいし、アドバイスもしてほしい。しかし運よく、新しい店に出会え、もしも私が髪の毛をピンクにするのだったら、ここでやってもらうだろうなと考えているのである。

次回は6月28日(水)公開予定です。お楽しみに!

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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