よみタイ

二十五年前に購入した布団の買い替えと収納術

 四日ほどで新しい布団とカバーも届いた。カバーは生地も裏側の布団の留め具もしっかりしている。いつも布団にカバーを掛けるのに四苦八苦するのだが、今回は方向、表裏をよく考えて、新しい布団にカバーを掛けた。新しい布団はふわふわした厚手で、カバーにぴったりと収まり、そのカバー自体の生地がとてもいいので、それを上にのせているだけで、三十年以上、マットレスだけ交換して使っている古いベッドでも、上質な雰囲気が漂ってきた。
 今まではしょぼくれた掛布団が、黄変したかのようなカバーの中で見苦しくよじれているのを、
「ちっ」
 と舌打ちしながら、毎朝、起きた後に、ぶんぶんと振り回して元に戻していたのとは大違いである。
「いいじゃないか、いいじゃないか」
 私はうれしくなって、もう一枚の掛布団にもカバーを掛け、いちばん薄い肌掛けは、あまりに新しい布団が暖かそうだったので、クローゼットにしまうことにした。新しいカバーをつけた布団二枚の上に、スウェーデン製の北欧柄の毛布を掛けたら、いかにも冬らしい寝床ができたので、大満足だった。そして使い古してすでにしょぼくれていた布団は、幾重にもたたんだ後、上に乗って空気を抜き、ガムテープでぎっちりとぐるぐる巻きにしたら、思いの外小さくなったので、そのまま可燃ゴミとして出してしまった。
 部屋を片づけるには、物をそこいらへんにほったらかしにしないで、すぐに片づけるという鉄則が、引っ越しの際に身にしみてわかったので、肌掛けは八つ折りにして、布団を買ったときに入っていた収納袋に入れて隣室のクローゼットの上の棚に置こうとした。収納袋に入れたはいいが、背の低い私はつま先立ちをしても棚の上まで手が届かず、かといって脚立や椅子を持ってくるのも面倒なので、布団は軽いし、えいっと棚の上めがけて放れば、うまいことのるのではないかと、狙いを定めて力いっぱい収納袋を放り投げた。ところが運悪く袋は棚板に激突し、放り投げたのと同じ速度で、私の顔面めがけて戻ってきた。
「ぎゃっ」
 すんでのところで叩き落としたが、不愉快、そして意気消沈したのはいうまでもない。
「やっぱり面倒がらずに、きちんとやるのがいちばん早い……」
 ぶつくさいいながら、脚立を持ってきて、棚の上に収めた。
「最初からこうすればよかったんだ」
 ブーメラン状態ですごい勢いで顔面めがけて戻ってきた映像が、何度も脳内で再生された。叩き落とせたからよかったものの、顔面に当たっていたら、それなりのダメージがあっただろう。
「あーあ、困ったもんだ」
 自分で自分に呆れながら、ベッドルームに戻り、美しくなったベッドの上を見てちょっと機嫌が直った。その部屋のしいのお骨の前に飾ってある、私が買ってきたカーネーション五本はずっと咲き続けているし、友だちがくれたラナンキュラス二十本も生き生きしている。何だか環境が整ってきたような気がしてくる。
「しいちゃん、見てごらん。ほら、だんだんきれいになってきたでしょう」
 と声をかけたけれど、きっとしいは、
「あんた、無精したから、顔めがけて布団が飛んできたでしょう。あたし知ってるわよ」
 と冷たい目をしているに違いない。
「失礼しました」
 と私は小声でいって、その場を離れ、増えてきた本の整理をはじめた。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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