よみタイ

冬の手荒れとタイツに浮かぶ謎の筋

 ところが問題は、手だけではなく足にも及んでいた。私は冬場にスカートを穿くときは、必ず濃い色のタイツを穿くのだが、歩いてしばらくすると、タイツの踵と靴が接触している部分の上に、白い筋のようなものが浮き出てきていた。その部分をつまんで伸ばしてぱっと離すと、白い粉状のものが飛び散って、白い筋は薄くなる。手でこすると、完全には消えないが、やや薄くなる。これはいったい何なのだろうと不思議に思っていた。タイツと靴がこすれて、そうなるのはわかったが、毎日、風呂には入っているし、その白い筋の正体はわからなかった。他の人はどうなのかと、冬場に外に出ると、タイツを穿いているスカート姿の女性の踵のあたりを凝視していたが、誰もそんな人はいない。どうして私だけそうなるんだろうと思いながら、それはすすぎ残しの石けんの成分なのではとも考えた。
 これは原因を確かめなくてはと、インターネットで検索してみた。昔はその答えは出てこなかったのに、再び検索したところ、その白い筋の正体は、剝がれた皮膚のようだった。足が乾燥しているところにタイツを穿き、それが靴でこすれて白い筋が浮き出てきたらしい。私以外に見かけなかったのは、それは多くの女性が足が乾燥しないように、ちゃんとお手入れをしている証拠だったのだ。
 私は白くなるのは、粉状の洗濯石けんのせいだから、液体石けんに替えようなどと勝手に考えていたが、問題があったのは自分だった。それからタイツを穿くときに、足にクリームを塗るようにしたら、白い筋は一切、浮き出てこなくなった。乾燥と摩擦で剝がれた皮膚が、タイツに白く浮き出てくるなんて、何て情けないことかと、さすがに呆れてしまった。私には呆れることがとても多いのである。しかし理由がわかって対処するようになってからは、見苦しいことにはならなくなった。
 風呂上がりにボディクリームを塗っていた時期もあったのに、いつの間にか面倒くさくなり、使いきったところでやめてしまった。若い頃と違って、何もしなくても体内からつるつる成分が出るわけではない。もう何かしら、しすぎるくらいにしなければ、がっさがさのままになるのが、とてもよくわかった。こまめな手入れが必要なのは再認識したが、私の性格上、極力努力はするけれど、これが習慣化するかどうかは謎なのである。

次回は1月25日(水)公開予定です。お楽しみに!

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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