よみタイ

パンツを穿いた土偶とDNA

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第9回 パンツを穿いた土偶とDNA

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 前に自分の体が「く」の字になっているのに気がつき、仰天した話を書いた。その「く」の字に関しては、極力気をつけるようになったので、ふと浴室の鏡を見ても、ぎょっとしなくなった。やっぱり意識のなかにあると、少しは違うんだなと思ったりしたのだが、新たな問題が出てきた。
 私が小学校低学年の頃だったが、同級生の男の子のお母さんの姿をみて、
(どぐうみたい)
 と思ったことがあった。うちでは親の方針として、
「勉強でわからないことがあったら、すぐに親に聞かないで、そのための本は買ってあげるから、まず自分で調べなさい。それでもわからなかったら、学校の先生に聞きなさい」
 といわれていた。そのため、うちはお金がないのにもかかわらず、百科事典と子ども用の図鑑のセットがあった。私は特に図鑑が大好きで、学校から帰っては手にとって眺めていた。それで「はにわ」と「どぐう」を知ったのである。はにわは自分たちが作った紙粘土人形のようで、『おそ松くん』に出てくる、イヤミみたいにシェーをしていた。どぐうは太ったおばさんにしか見えなかった。しかしその両方とも、私のお気に入りになった。
 私の母は腰高で脚が長く、近所のおばさんから、
「子どもを二人も産んで、ヒップが八十五センチって、どういうことなの?」
 などといわれていたので、身近にはどぐうはいなかった。そこで同級生のお母さんを見て、
(あっ、どぐうがいるっ)
 と目がくぎづけになってしまったのだった。喜んで母に報告すると、
「そんなことをいうものじゃない」
 と叱られた。私はただ現実に動く「どぐう」がいたのがうれしかったのに、母の厳しい顔つきをみると、それは軽々しくいってはいけないことだと悟ったのだった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おネコさま御一行 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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