よみタイ

冬の手荒れとタイツに浮かぶ謎の筋

 翌朝、手袋を取ってみたら、近年見たことがないくらい、手がすべすべになっていた。
「うわあ、すごい」
 と感激し、やはりおばちゃんの肌荒れには、単品だけではなく、二段重ねでいかないと、効果はないとよくわかった。といっても、水仕事をするたびに、こまめにハンドクリームを塗ってケアしてきた人は、こんな思いはしないだろう。だいたい、ハンドクリームを塗って、両手がじんじんと赤くなってしみるまで手荒れを放っておいた私が悪いのである。
 私はこまめにやるということができないたちなのだ。ここはちゃんとしなければと思うところは、きちんとするけれど、自分のなかの優先順位が低い事柄に関しては、先延ばしにする。たとえば同年配で、ヘアメイクや美容の優先順位が上位にある人は、自分の体の手入れを怠らないはずだ。しかし私はどうしてもそのジャンルに関しては、面倒くさくて仕方がない。そしてあまりにひどいと自分で呆れ果ててやっと手を施すので、いつも遅きに失しているのだ。
 水回りの掃除をしたり、庭仕事をしたりするときは、ゴム手袋を着けるが、できれば着けたくない。それすら面倒くさい。素手で何でも思いっきりやりたいので、私の手はダメージを受ける。それなのに復活してくれて、手をかければちゃんと戻るのだなあと、我が手に申し訳ない気持ちになった。それからは気をつけて、ドラッグストアで購入した、「プロ用」と表示のあるハンドクリームをこまめに塗るようにしている。

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新刊紹介

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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