よみタイ

パンツを穿いた土偶とDNA

 そして先日である。風呂に入るのには当然、服を脱ぐので、脱衣所で準備していた。毎晩、入浴前に体重、表示される体脂肪率やら内臓脂肪率、基礎代謝量などをチェックしている。床に置いたヘルスメーターを移動させようとして、戸を開けた浴室の壁にある鏡に、何気なく目をやったとたん、ぎょっとした。パンツを穿いた土偶がいたのである。
「えっ、私ってこんなだったの?」
 小学生の頃よりは多少、知識も増え、正確には遮光器土偶である。
「ええーっ」
 といいながら、脱衣所で鏡を見ながら前に進んだり後ろに下がったりしてみたが、鏡に映る姿は、距離を調整しても遮光器土偶に変わりはなかった。
 考えてみれば、私もあと少しで「古来、まれ」な古希を迎える。明らかに老女枠に足をつっこんでいる。だから体型が崩れたとしても、当然なのだけれど、ここまで土偶になっているとは思わなかった。まじまじと鏡の中の自分を眺めてみると、着衣というものは、体の欠点を隠してくれるものだなと感慨深かった。たとえば自分のすぐ前に鏡があるのと、何メートルか先に鏡があるのとでは、ずいぶん映り方が違う。遠くに鏡があるほうが、明らかに自分の欠点が露呈する。遠目で見てスタイルのいい人、たとえばモデルさんなどは、近くで見たら同じ生物と思えないほど、スタイルがいいのだろう。そして残念ながら、離れたところから見た土偶の私が、世間の多くの人が見ている、自分の正しい姿なのだ。
 まさか自分が土偶になっているとは思わなかったとぶつぶついいながら、日課にしているヘルスメーターに乗った。小学生のとき、同級生のお母さんを「どぐう」といってしまったことが、ブーメランのようになって自分に戻ってきた。そのときの彼のお母さんは、三十代で今の私よりもずっと若く、裸でもなくひらひらしたワンピースを着ていたので、彼女はまだ若いのに土偶になっていたと、少しでも自分のテンションを上げようとしたが、土偶は年齢関係なく、土偶なのだと納得するしかなかった。
「ちぇっ」
 と舌打ちをしてヘルスメーターに乗ると、特に数値の大きな変化はなかった。私は体重よりも、体脂肪率、筋肉量、骨量のほうが重要だと思っているので、多少、体重が増加しても気にしない。今のところ体脂肪率、内臓脂肪率はマイナス標準だが、ちょっと多めに食べると標準に増加する。なるべくマイナス標準を維持しようと考えている。筋肉量、骨量も標準、基礎代謝量が高い以外は、すべて標準なのである。体内年齢は昨日時点で五十五歳だったので、実年齢よりマイナス十二歳。これはこのヘルスメーターの機能を信じてのことだから、本格的に測ってみたら、違う部分もあるかもしれない。項目の多くが標準内だし、体内年齢がマイナスなのだから、まあいいほうなのではないかとほっとはするのだけれど、体型は見事に遮光器土偶なのだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おネコさま御一行 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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