よみタイ

元気すぎる雑草の生長と謎の穴

 草を取っていくうちに、土に謎の穴が空いているのを見つけた。直径が二・五センチくらいで見た感じ、とても深そうだった。何なのかなあ、指を入れてみようかなとも思ったのだが、へたにのぞいて中から急に何かが飛び出してきたらいやだし、中に生き物がいた場合、石で蓋をするとかわいそうなので、小さめの葉っぱをそっと穴の上にのせて、近づかないようにした。
 草取りの時間は三十分間と決めているので、根深そうな雑草は、地面から出ているところだけになってしまったが、三十分で砂利が見えるような状態になったのでよしとした。想像していたよりもずっと、取った雑草の量が多かった。ドクダミは水洗いして水分を拭き取り、うちには焼酎がないので、消毒用のアルコールと一緒に空き瓶に入れた。だんだん液が茶色くなっていき、約一カ月で使えるようになるそうだ。
 たった三十分なのに、早足で歩いたくらいの汗をかいた。草取りはいい運動になりそうだが、早朝はまだしも、さすがに夏の炎天下にはやめたほうがよさそうだ。気になっていた場所が、まあ満足できる程度にきれいになり、それから何度もそこを見ては悦に入っていた。
 しかし、二日経ち、三日経つと、また雑草が元気に生長してきた。シダ、ドクダミ、ハルジオン、きみたちは意気消沈するとか、しばし休むとか、そういったことはないのかと聞きたいほどだ。除草剤は使いたくないので、こまめに取るしかないが、いい運動になると思って続ける。そしてあの謎の穴は何なのかと、これまたインターネットで調べてみたら、どうやら形状からして、セミの幼虫が抜け出た穴であるらしい。そういえばはじめてセミの声を聞いた頃でもあった。
 それから二週間後、庭にトンボが飛んできて、マンサクの木にとまっていた。そして一週間ほど前には、玄関と庭にスズメ、そして昨日はうちの物干し竿ざおに、ヒヨドリがとまって、じっとこちらを眺めていた。ここに引っ越してきてから一年、外を歩いているネコの姿を、一匹も見ていないのはとても残念だが、「ぼくらはみんな生きている」という歌詞をより強く感じているのだった。

次回は10月26日(水)公開予定です。お楽しみに!

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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