よみタイ

元気すぎる雑草の生長と謎の穴

 ヤブガラシに目を奪われているうちに、防犯のためにかれている砂利を押しのけて生えている雑草は、元気よく生長し続けていた。三十センチ以上も、伸びてきているものまであった。
「早く草取りをしなくちゃ」
 と思っていたものの、連日の猛暑続きで、いくら庭とはいえ、外で作業をする気にもならず、先延ばしにしていた。するとまた日に日に雑草の生長が著しくなり、他の部分は砂利が敷いてあるのが見渡せるが、その一角だけは草しか見えなくなってしまった。
 放置するわけにはいかないので、天気予報を毎日調べながら、やや気温が低くなるという日の午前中に目標を定め、草取りを決行することにした。六時に起きて燃えるゴミを出し、足元はサンダル履きだが、帽子、長袖Tシャツ、エプロン、首に手ぬぐい、両手にゴム手袋という姿で、ゴミ袋を傍らに置いて、草取りをはじめた。
 草取り用の道具も購入したのだけれど、夏場に本気でやりすぎるのは、前期高齢者としてはよくないのではないかと思い、手で抜ける部分だけを抜くという方式にした。さすがに朝早くだと、私の天敵の蚊も出てこないようで、スムーズに草取りは進んだ。ハルジオン、ノゲシ、カヤツリグサ、シダ類のうちの何か、をはじめ、ドクダミもたくさん生えていた。これを洗って焼酎やアルコールにつけておくと、虫刺されなどに効くと知ったので、他の草とは分けておいた。
 ヤブガラシのように根が深いものは別にして、他の雑草は引っ張ればすぐに抜けるので、それほど辛い作業ではない。しかしハルジオンはどうしても手だけでは根まで抜けないので、地面の葉しかむしれなかった。放射状に平たく葉を広げているのだけれど、それごとごっそり抜けないのだ。ハルジオンは貧乏草ともいい、ヤブガラシと同じように、野原にたくさん生えていた。そして春になると白い花を咲かせた。
 私が小学校に入学する前に住んでいた長屋の庭にも、ハルジオンが咲いていた。それを見た母親が、
「貧乏人の家に貧乏草が生えているのは困ったものだ」
 といい、私が切って花瓶に活けたいといっても、だめといって許さなかった。花が咲いたらハルジオンとわかるけれども、その前はこういう状態だったのかとはじめて知った。
 私の年齢を考えると、ヤブガラシもハルジオンも六十年以上前から地面に生えていた。もっと前、東京が焼け野原になった直後も生長し、繁殖し続けてきたのだろう。それは根性が違うと思いつつ、申し訳ないが今のところ、うちには不要なので、お引き取りいただくしかなかった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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