よみタイ

元気すぎる雑草の生長と謎の穴

 もう一本のヤブガラシは、マンサクの木が植えてあるのと同じ場所に生えていた。木はテラスの中の約四十センチ四方にカットした部分の地面に植えてあるのだけれど、そこにはカタバミ、ドクダミ、シダ類の何かが生えているのはわかっていた。しかしそれ以外の草は私が植物に疎いために判断できず、もしかして大事な植物だったら、生長する前に抜いたりしてしまっては大変だと、大きくなるまで放置していたら、それもヤブガラシだったのだ。
 他の草は愛らしく、「私たちがいらなかったら、抜いてもらってもいいです」といっているかのように、素直な愛すべきたたずまいなのに、ヤブガラシは、のちにいっぱしの有名な植物になるかのように堂々としている。一見、花もかわいくて怪しくないのだけれど、実はとても策略家でしつこく、他の植物に害を及ぼすやつなのだった。
 当然、それもからみついているあちらこちらの蔓を切り、ロープをたぐるようにして、木の枝から引きはがした。面白いようにはがれてくれるのはよかったけれど、こちらも結構な長さに生長していて、こんなものを二本も背負わされていた、マンサクの木はさぞや辛かっただろうと眺めると、地面に付きそうになっていた枝がぐいっと持ち上がって、
「ああ、せいせいした」
 といっているかのようだった。
 ヤブガラシの説明には「一度ひろがってしまうと、その土地から完全に取り去るのは難事」と書いてあった。これから気をつけて見ていかなくてはと思っていた矢先、隣家に生えているヤブガラシが、これも隣家から枝を伸ばしているアカメガシワをつたって、うちの窓のほうに蔓を伸ばしているのが見えた。その蔓の形状の雰囲気が、若い女性にしつこくからむおやじの指先のようで気持ちが悪い。
 マンサクの木からは、多少距離があるために、早急に被害が及ぶわけではないが、シャッターの枠の穴にまで、蔓を伸ばしてきたことを思うと、安心はできない。
「あんたは、いったいどこまでくっついてくるつもりだ」
 と呆れつつ、毎日、ヤブガラシの生長をチェックして、窓に届くことがないように、はがすタイミングを見計らっている。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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