2022.10.27
画家の目と絵筆を通して鮮やかによみがえる、土地の姿と営みと 第2回 時間と空間を再現する風景描写
同様に聖書の場面と都市景観を組み合わせたのが、十五世紀後半に活躍したヴェネツィア派の画家ジョヴァンニ・ベッリーニの手になる〈ピエタ〉(一五〇五年頃)である。「ピエタ」という主題は、キリストの亡骸を抱えて嘆き悲しむ聖母マリアを扱うもので、絵画や彫刻でも多く取り上げられてきた。ベッリーニの描く聖母とキリストの姿は、明らかにミケランジェロの大理石彫刻像〈ピエタ〉(一四九八―一五〇〇年頃)の影響を受けているだろう。
ベッリーニの〈ピエタ〉の風景は、象徴と写実性の織り成す自然表現と、実在の都市の特徴が組み合わさっている。荒野の草地は聖母の閉ざされた庭を示唆し、精緻に描かれた植物は、この哀悼の図像に意味を添えている。前面の砂地に葉を広げる蒲公英が象徴するのはキリストの受難であり、白い苺の花は正義、菫が表すのは謙譲であった。そして、キリストの横に見られる切り株は、エデンの園の生命の樹と同時に、磔刑の十字架を組み立てるための材木をも象徴している。また、遠く連なる丘陵に横たわる街並みには、ヴェネツィア周辺やその他の都市の幾つかのモニュメントが組み込まれていた。この都市景観図にはヴィチェンツァのパラディアナ聖堂と塔や、ラヴェンナのサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂の鐘楼、チヴィダーレのディアボロ橋が確認できる。
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