よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」

うちのネコ、しいの旅立ちを見送る

 日曜日だったが車はスムーズに動き、渋滞にも巻き込まれず無事に目的地に到着した。十六年前と違って、動物霊園はとてもきれいになっていた。休日だからか周辺の人出もとても多い。以前は、木造の掘っ立て小屋みたいな場所で受付をしてもらい、プレハブみたいな簡素な部屋で待機していると、名前を呼ばれて火入れの場所に案内され、そこでお別れをし、呼ばれるまで再び待機するシステムだった。
 しかし今回は、きれいになった建物が受付場所になっていた。窓口の若い男性が、私が記入した「二十二歳七か月」というしいの年齢を見て、
「えっ、二十二歳と七か月ですか。すごいですねえ」
 といってくれたので、ちょっと誇らしかった。施設もきれいになったが、葬儀もほとんど人間と同じだった。「○○家」と私の名字が書かれた立て札が別棟の部屋の前に立ててあり、中に入るとそこは小部屋になっていた。亡骸を安置する場所と、その奥には両側にスタンド式のきれいな花が飾られている祭壇が設えられていた。持参した写真を祭壇に置き、葬儀担当の若い女性と一緒に、白い薄手の布団が敷いてある台の上に亡骸を置いた。そこで焼香が行われ、おっちょこちょいの私は、線香についた炎を左手であおいで消そうとして、左手の人差し指を火のついた線香にくっつけて、
「あちち、あちち」
 と叫んでしまった。
「大丈夫?」
 友だちは心配してくれたが、きっとしいは、飼い主の体たらくを見て、
「まったく、あんたはしょうがないねえ」
 と呆れていたに違いない。葬儀の段取りとしては、僧侶の読経がないだけで、ほとんど人間の葬儀と同じだった。友だちのうちの一人が、しいにお手紙を書いてきてくれたので、それを体のところに置き、生ものは持ってこられないので、ドライフードを少量、紙箱に入れて口元に置いた。
 小部屋の奥の引き戸を開けると、そこが火入れの場所になっていた。十六年前の葬儀のときも、友だちは個別の立会いで返骨を選んでいたが、たしか火入れの場所は一か所で、四基ほどの機械が並んでいた。そこで並行して火入れをしていたと思うが、現在は個別の立会いだと、個室を使って一家族のみになったらしい。友だち三人と私とで、
「しいちゃん、長い間、本当にありがとう。さようなら。またすぐに戻ってきてね」
 と特に涙もなく、みんなで笑って手を振って見送った。
 その部屋を出て小一時間ほど、受付をした建物の奥の個室で待たされた。そこには供養するためのたくさんの品物が並んでいて、分骨して身につけられるペンダント、仏具、オーダーでペットの写真がプリントできる置き物などが並んでいた。ボンタンアメやネコ缶のパッケージを模した線香まで売っていて、
「はあ、こんなものまで」
 と感心してしまった。若い男性や中年女性が、
「ペットの御守りをください」
 と買っていったので、需要はあるようだった。
 再び担当者が呼びに来て、火入れの部屋に戻り、お骨になった状態のしいと対面した。
「ちっちゃーい」
 一同、ほとんど同時に声が出た。
「こんなに小さいの?」
 いちばん太っていたときでも三・一キロくらいで小柄だったのはたしかだが、それにしても毛皮と筋肉がないとこんなに小さくなるとはと、またびっくりした。十六年前に葬儀をした友だちのネコは男の子で、最後はしいと同じで痩せてはいたが、お骨になったときには、小さいとは思わなかった。いちばん体重が重いときには彼は六キロ以上あり、しいはその半分なのでその違いなのかもしれない。本当に小さかったけれども、しいの骨はきれいだった。担当者が目の前のしいの骨について説明して、ステンレスのバットにきれいに整えた骨を控えの部屋に持ってきてくれた。そこで人間のときと同じように骨上げをして、最後に私が頭部の骨を骨壺に収めた。しかしあまりにしいの骨が小さかったものだから、霊園が用意してくれた骨壺の半分以下しかなかった。
「すかすかですね」
 私がつぶやくと、担当者は黙っていた。立場上、「そうですね」ともいえないのだろう。
「これは何とかしたほうがいいんじゃないの?」
「四十九日が過ぎたら、小さい骨壺を買って入れ替えてあげたほうがいいね」
 友だちと私はそういって、担当者が桐箱に入れ、正面に白い房飾りがついたきれいな袋をかぶせてくれたお骨を受け取り、葬儀は無事終了した。霊園に到着してから二時間で終了した。霊園はきれいになっていたが、私はきれいじゃないかもしれないけれど素朴で、控え室で他の遺族の方々とお話ができた、以前のほうがよかったなと思った。
 友だちの車で家まで送ってもらい、
「しいちゃん、家に帰ってきたよ」
 とお骨に声をかけた。亡骸が家にあるときは、見るたびに体を撫でてやり、「どうしてこんなことになったのか」と動揺するところもあったが、お骨にしたとたんにふっきれた。何十年も前に呉服店からいただいた、川島織物の絹製のテーブルセンターをテーブルの上に置き、その上にお骨を安置した。いつも私の姿が視界にないといやがったので、私が仕事をしている場所の真ん前に置いた。お骨の周囲に、私があわてて買ってきた花、友だちが持ってきてくれた花、ありがたいことにしいを気にかけてくださった方々が送ってくださったお花を飾ると、女王様らしくとてもゴージャスな一角になった。唐子の柄の小さな湯飲みに水を入れて骨箱の前に置き、顔立ちが愛らしいので買ってしまった、幼いイエスを抱っこした高さ十五センチのマリア像と、知り合いからおみやげにもらった、繊細な象牙細工の五センチの大きさのお地蔵さんを両脇に置いた。宗教関係がめっちゃくちゃだが、両方とも愛らしい顔立ちなのでそれでいいのだ。
 眺めているうちに、女王様のためにもっと華やかにしてやりたくなり、お洒落な骨壺、手頃な大きさの花瓶を探さなくちゃと、仕事の合間にいいものはないかと、あれこれ探している。たくさんの種類があって、目移りするばかりだ。こんな私の姿を見て、しいは、
「何やってるの。そんなことをしていないで、とっとと原稿の一枚でも書きなさいよ」
 と呆れているに違いない。二十二年間、ネコ中心、そしてネコに毎日叱られて生活してきた私は、未だにしいが大きな目でずっと私の行動を見張り、チェックしているような気がしてならないのだった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おたがいさま れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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