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”事故物件”つながり(?)で行われた、鈴木光司さんと松原タニシさんとの対談も、いよいよ後編に突入! 前編は、船と部屋の事故物件ではどちらが恐いか、海と幽霊はどちらが恐いか…で大いに盛り上がりました…今回は未知の世界を追求するうちに、新たな企画まで飛び出して……? ホラーを超え、人智を超え、ふたりのストーリーは広がっていきます。 (構成/藤原綾 撮影/冨永智子)

霊的なものを感じるとき—”事故物件”対談  松原タニシ氏×鈴木光司氏 <後編>

鈴木光司さん『海の怪』刊行記念

科学の進歩が“わからない”ことを生む

――事故物件に住むようになって、感覚が研ぎ澄まされたと感じることはありますか?

松原 僕は、ただの勘違いを霊的なものと意識してしまう人のほうが実は多いんじゃないかなと考えすぎて、むしろ霊感や霊的な現象を見逃しているかもしれません。そういう意味でも、僕自身は霊的な現象と遭遇できなくなっているんですけど、周りからはいろいろ言われますね。タニシさんの映画を観た帰り道に車がパンクしましたとか(笑)。ただ、リアルなのは、よみタイに公開されている鈴木さんの『船の事故物件』の話にも出てきましたけど、音声にノイズが入ることはめちゃくちゃあるんですよ。

鈴木 映画『事故物件 恐い間取り』にも出てきたけど、あのシーンは怖かったね。

松原 あれは実際に起こっていることだから、そこだけはわからないんです。記録されたものの中に何かが入っていたっていう出来事は、よく起こるようになりました。

鈴木 科学で解明できないことは、まだまだ山のようにある。そこにフィクションがつけ込むすき間がある。

松原 鈴木さんはリアリティを追求されてますよね。リアリティを追求して、取捨選択を突き詰めていけばいくほど、霊的なものを勘違いできなくなる気がします。

鈴木 たとえば、自分の夫が地球の裏側で突然亡くなったとする。彼の妻が夜中なのにハッと目が覚めて、瞬時に夫の死を察知する。

松原 虫の知らせですね。

鈴木 もし「虫の知らせ」が実在するとしたら、情報が届く速度がどれぐらいなのか、思考実験したくなるんだ。わかりやすくするために、夫の職業を宇宙飛行士としよう。彼は、地球から4・5光年離れたケンタウルス座アルファ星での任務中、事故で亡くなったとする。同僚の宇宙飛行士がその情報を光通信で地球に送ったとしても、アインシュタインの説では、どんな情報も光より速く進むことはできないとされているため、最短でも4年半かかる。しかし、もし妻が、「虫の知らせ」によって夫の死を瞬時に察知したとしたら、情報が光より速く飛んだことになる。

松原 テレパシーのようなことですか?

鈴木 そう。光速度をしっかり守ってテレパシーが情報をやりとりするとは思えないんだ。となると、アインシュタインの理論は崩れてしまう……。

松原 その考え方、面白いですね。

鈴木 宇宙をとりまくあらゆる現象が現代科学で説明できると考えるのは、思いあがりも甚だしい。ほんの20年ばかり前までは、宇宙に存在する物質をすべて理解したと思っていた。ところが、その後、ダーク・マターとダーク・エネルギーが95%を占め、われわれが把握していた物質はたった5%に過ぎないことが判明した。つまり、科学が進めば進むほど、わからないことが増えていった。

松原 なるほど。“わからない”ということが、わかっていくんですね。

鈴木 そう、わかればわかるほど、わからないことがどんどん増えていく。みんな、科学が進歩するとわからないことが減っていくと誤解してるけど、実は逆。だからこそ、小説のネタも尽きない。ダークな部分にこそホラーが扱うネタはいっぱいあるんじゃないかと思ってる。この先何が起こるかなんて、誰にもわからないからね。

松原 そういう思考から「貞子」も生まれたんですか?

鈴木 いや、貞子が井戸から出てきたのは単なる偶然。友人の部屋を訪ねて、窓を開けたら、たまたま墓石と井戸があったというだけ。ひょうたんから駒、ひらめきなんだよ。

松原タニシ氏
松原タニシ氏
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松原タニシ

まつばら・たにし●1982年兵庫県神戸市生まれ。お笑い芸人。主に「事故物件住みます芸人」として活躍中。事故物件に住むようになったのは、先輩芸人・ 北野誠の番組「北野誠のおまえら行くな。」のトークイベント出演時、知り合いの若手芸人が住んでいたアパートでの怖い話を披露したところ、北野からその部屋に住んでみるよう言われたことがきっかけだった。しかしこの物件は諸事情で借りられなかったため、殺人事件があった別の物件に2012年から住むことに。2018年6月、これまでに住んでいた所や物件検討時の内覧、特殊清掃のアルバイトなどで訪れた事故物件を間取り図付きで紹介する『事故物件怪談 恐い間取り』を上梓。本作は、中田秀夫監督、亀梨和也主演(2020年8月公開)で映画化され話題となった。
著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『事故物件怪談 恐い間取り2』『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)、『ゼロからはじめる事故物件生活』(原案・小学館)、『ボクんち事故物件』(原案・竹書房)などがある。
レギュラー番組に、CBCラジオ「北野誠のズバリ」(毎週火曜日13:00~16:00生放送)、ラジオ関西「松原タニシの生きる」(毎週月曜日19:30~20:00生放送)、Youtube、ニコニコ生放送「おちゅーんLIVE!」(毎週土曜日22:00~23:00生配信)、ニコニコ生放送「大島てる×松原タニシの事故物件ラボ」(毎月1回不定期生配信)など。

Twitter@tanishisuki

鈴木光司

すずき・こうじ●1957年静岡県浜松市生まれ。作家、エッセイスト。90年『楽園』で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。91年の『リング』が大きな話題を呼び、その続編である95年の『らせん』では吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』は日本で映像化された後、ハリウッドでもリメイクされ世界的な支持を集める。2013年『エッジ』でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。リングシリーズの『ループ』『エッジ』のほか、『仄暗い水の底から』『鋼鉄の叫び』『樹海』『ブルーアウト』など著書多数。
「鈴木光司×松原タニシ 恐怖夜行」(BSテレ東)期間限定放送中。

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