よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」
物を減らす、無駄なことはしない、必要以上に買わない。
「しない。」生活のなかだからこそ、手に入れるもの、するべきことは
試行錯誤を繰り返し、日々吟味している群ようこ氏。
そんな著者の「しました、食べました、読みました、聴きました、着ました」
など、日常で「したこと」をめぐるエッセイです。


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うちのネコ、しいの旅立ちを見送る

今日は、これをしました 第9回

 十一月一日、うちのネコ、しいのお葬式をした。前日の明け方、二十二歳七か月と二十八日で亡くなった。今まで風邪ひとつひいたことがなく、亡くなる五日前から水しか口にしなくなり、初日に病院で診てもらったら、病気ではなく老衰といわれて、そのときはほっとしていたところだった。年を取ったネコのなかには、食べ物に興味を示さなくなる子がいるらしく、先生にそういわれて、これからどのようにしようかと考えていたところだった。
 もともとうちのネコは少食で偏食がひどく、食べてもらうのにとても苦労した。食べ物でご機嫌をとるなどとても無理だった。食事の基本のドライフードを見つけるために、どれだけの商品を購入したかわからない。ネコ缶も試しに二、三個買ってみたら喜んで食べていたので、これはよさそうだと、一箱二十四個入りを買ったとたんに食べなくなったり、本当に困った。
 おまけに添加物が入っているものを嫌い、私は懐石食いと名付けていたのだが、たくさんの種類を、ちょこっとだけ食べる。そのためにイタリア、ドイツのオーガニックのフードを購入し、国産のものも各種取り揃えて随時、八~十種類はストックしていた。毎日、食器は六個並べていた。すべて完食するわけではないので、残った分は捨てなくてはならない。ゴミも増えるし不経済この上なかったが、その方法でしか食べないので仕方がなかった。「ごねればたくさんの好みの御飯が出てくる」と、私が甘く見られていたのかもしれない。市販のウェットフードを食べないときは、刺身用の柵取りした鮭をさっと湯通しして細かくしたものと、なまり節をほぐして短時間煮たものを、毎日出していた。それも完食するのはほんの少しだった。
 少食のわりには活発で運動量が多く、二十二歳になっても、高さ四十五センチほどのベッドの上に乗ったり降りたりができていた。動物病院でも若い頃は、
「活発ですねえ」
 といわれ、高齢ネコといわれる年齢になっても、
「元気ですねえ」
 と感心されていた。そんな三キロ足らずの小さな体で、毎日、よく立派なうんちが出るものだと、私も感心していた。いつも尻尾がぴんと立っていて、ご機嫌に暮らしていた。そんな姿を見ながら私は、
「そんなにわがままな女王様気質で暮らしていたら、いやなことなんかないよね」
 とつぶやいていた。しいは気の強さだけで生きているようなところがあった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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