よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」

掃除道具を買い替える

 私の感覚で見苦しくないものに買い替えてみたら、気持ちが落ち着いてきた。ワイパーのほうはこんなに軽くてシンプルなもので大丈夫なのかと、ちょっと不安だったが、磁石の力が意外に強く、市販のシートはもちろん、古くなったTシャツをカットした布でもちゃんと使える。腕の力がなくなったおばちゃんには、この軽さがとてもありがたい。掛けられるように上部に穴が開けられて紐が通されているが、うちには上手く使えるフックがないので、そのまま部屋の隅に立てかけている。
 そしてうちの老ネコがこれまで使っていた、オーガニックコットンでできたドーム形ベッドに入らなくなった。このベッドは気に入っていて、洗っても汚れが落ちなくなると買い替え、これまで同じものを計三回、買い続けていたのだが、ネコも歳を取って好みが変わったのか、まったく中に入らなくなってしまった。
 うちの老ネコは、基本的に下僕の私の行動を監視しているため、起きたときに、いつでも私の姿を認識できる場所が好みらしい。ネコがいつもリビングダイニングルームにいるおかげで、仕事部屋にするつもりだった部屋はただの本置き場になってしまい、私の仕事場は食卓の上になった。老ネコだし、ベッド的なものがないと辛かろうと、ドーム形ではないベッドをいくつか買ってやっても、入ろうとしない。いつも部屋の隅っこでだら~っとしている。
「体が痛くなるんじゃないの?」
 と下にお気に入りのフェイラーのタオルを敷いてやっても、じっと見た後、
「うえーっ」
 と鳴いて、どけてちょうだいという。
「じゃあ、いらないのね?」
 と取りのぞくと、ふうっとため息ついてそこにごろりと横になって寝るのだ。
「痛くないの? 体、大丈夫?」
 と声をかけても、
「私はこれで結構です」
 といっているかのように、無視するのだ。
 そのフェイラーのタオルは、私の枕の横で寝るときに敷いてやっていたのだが、ブルーとピンクを買ったのに、ピンクのほうだけがお気に入りで、ブルーを敷いていると、
「んー、んー」
 と鳴いて、替えろといっていた。そこでピンク色に替えてやると、そこで丸くなった。ネコは人間と同じようには色彩が判断できないらしいけれど、とにかくお気に入りのピンクのタオルだったのだ。暑い時季のお気に入りの、麻のシーツをたたんだものを置いてやっても状況は同じで、直接板の間にころりと横になって寝ている。
 タオルもシーツもいらないというので、本人がそういうのだからいいかと思っていたが、これから暑くなってくると、カーテンはあるにせよ、日射しを遮るものがあったほうがいいだろうし、通気性もあったほうがいい。そこでとう製のネコベッドを購入してみた。コクーンという名前が示すように繭の形に似ている。九十パーセント以上のネコが喜んで中に入ったといううたい文句だったので、これだったらうちの気むずかしい老ネコも、喜んでくれるのではないかと期待して購入した。インテリア的にも部屋になじむ気がしたのである。
 入口の直径は二十センチ、奥行きが四十五センチの筒形に編んであり、籐製なので隙間から外を見ることができる。風通しはいいし日射しもほどよく遮れる。
「ほら、新しいベッドだよ」
 中に敷くためのクッションもついていたが、それではなくネコのお気に入りのピンクのタオルと麻のシーツを小さくたたんで中に敷いた。するとさすがの謳い文句と思ったのだが、今まではまったく新しいベッドに興味を示さなかったのに、入口をのぞきこんだり、匂いをかいだりしている。
(いいぞ、いいぞ)
 と心のなかで叫び、
「いいねえ、ちょっと素敵でしょ。中に入ってみたら?」
 と勧めてみた。しかしそれだけで終わった。いつ入ってもいいように、しばらくそのまま置いていたが、まったく中に入る気配がなく、いつものように部屋の隅っこの床の上で、気持ちよさそうに寝ている。
 問題はその繭形ネコベッドの始末である。横にしているのを立ててみたら、
「ゴミ箱としたらいけるかも」
 とひらめいた。ネコベッドは繭形を床に置いたときの安定性を保つために、一部分だけ平らに編んである。正しく設置したときの、出入口の反対側も平らになっているので、そこを底にしても安定はいい。そうすると側面に平らな部分があるのが見えるのだが、そこはうまく置けばごまかせそうだ。もとはネコベッドではなく、お洒落なインテリア用品、籐製の壺に見えるのではないか。
 それなりに大きく籐製だし、再利用しないともったいないので、平らな部分を隠しつつ、部屋の隅に置いて紙用のゴミ箱として使っている。部屋の中からは、プラスチック製品が徐々に排除されているのだけれど、正直、この苦肉の策のゴミ箱については、目を向けるたびに、これでよかったのかと、我ながら疑問に感じているのである。

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おたがいさま れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

週間ランキング 今読まれているホットな記事