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酒井順子「言葉のあとさき」
時代が変われば言葉も変わる。
そして、言葉の影に必ずついてくるのはその時代の空気。
かつて当然のように使われていた言葉が古語となり、流行語や略語が定着することも。
言葉の変遷を辿れば、時代の流れにともなう日本人の意識の変容が見えてくる……。
近代史、古文に精通する酒井順子氏ならではの冴えわたる日本語分析。

「OL」は進化するのか

言葉のあとさき 第11 回

「モーニング」に連載されている、「OL進化論」(秋月りす)が好きです。会社生活での日常のあれこれを描く四コマ漫画なのですが、ふと「この連載も随分長く続いているなぁ」と思って調べてみたら、なんと開始は一九八九年。三十年以上も続いている連載だったのです。
 改めて畏敬の念を抱きつつ思ったのは、
「しかし最近、『OL』という言葉をあまり聞かない気がする」
 ということでした。
 職業を聞かれた時、
「OLです」
 ではなく、
「会社員です」
 とか、
「IT関係の企業に務めています」
 などと答える女性が、増えているのではないか。
 看護婦→看護師、保母→保育士のように、女であることを前提とした職業の名称が、ユニセックスなものに変更されたのは、二〇〇〇年前後のことでした。しかし同じように「働く女」を示す「OL」という言葉は、その後も生き残っていたのです。
「看護婦」「保母」と「OL」とでは、その出自が異なります。「看護婦」「保母」は、かつてほとんど女性しか就かない職業だからこその、「婦」であり「母」でした。法律上でも使用される公的な言葉であった「看護婦」「保母」は、ユニセックス化の波の到来によって、名称変更されたのです。
 対して「OL」は、公的にOLという立場があるわけでなく、愛称のような通称のようなもの。なぜそのような呼び名があるのかといえば、そもそも企業というものが男のための場だと捉えられていたからでしょう。
 男の陣地である企業にひょっこりと入ってくるようになった女は、男達の補助要員であり、チアガール。彼女達はB級の会社員なのだから、男達と同じ「会社員」ではない……と男達は思ったでしょうし、世間もそう見ていたから、「男と同等の立場ではない」ことを示す言葉が必要になったのではないかと思われます。
 OLは、最初からOLと言われていたわけではありません。OLという言葉が登場したのは、昭和で言うならば三十年代の末頃であり、それまではBGすなわち「ビジネス・ガール」という言葉が使用されていました。しかし「BG」は、売春をする女性の意になるという意見があったことから「女性自身」誌が新しい呼称を公募した結果、「OL」という言葉が登場したのです。

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酒井順子

さかい・じゅんこ●1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。立教大学社会学部観光学科卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『下に見る人』『ユーミンの罪』『地震と独身』『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『次の人、どうぞ!』『男尊女子』『家族終了』など多数。

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