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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」
翻訳家の村井理子さんによるエッセイ『兄の終い』。
実兄の孤独死をめぐる顚末を、怒り、哀しみ、そして、ほんの少しのユーモアで描いた話題作です。
『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』など、数多くの注目翻訳作品を手掛ける村井さんが琵琶湖畔に暮らして、今年で15年になりました。
夫、10代の双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリー君と送る賑やかな毎日―。
公私ともに古今東西の書籍にふれる村井さんは、日々何を読み、何を思い、どう暮らしているのでしょうか。
人気翻訳家によるエッセイ+読書案内。

お弁当時間、女子中学生の憂鬱—おかずの彩りに憧れて

 コロナ禍による休校が三ヶ月続き、ようやく学校が再開されたと思ったら、今度は弁当作りが待っていた。登校開始直後に給食がはじまらないことはわかっていたので、まったく驚きはしなかったけれど、さて、何を詰めようかと頭を悩ませた。

 わが家の双子男児は、同じ環境で育ったというのに、それぞれ食の好みがまったく違う。長男は好き嫌いが一切なく、とにかくなんでも好んでよく食べる。好奇心も旺盛で、初めての食材に挑戦するのが好きだ。一方で次男は、野菜がまったくダメである。細かく刻めば食べることができるのだが、例えば煮物はからきしダメ。和よりは洋。魚よりは、断然、肉。そして冷凍食品は苦手という、ちょっと困った十四歳なのだ。

 二人の嗜好を考慮しつつ、弁当の中身は違ったものを詰める。長男用には、野菜や卵を使い、彩りを考えて、きれいに詰めることができる。自分でも満足のできあがりだ。長男も喜んで食べてくれる。次男用には、「おかずはお肉だけでいいからねッ!」と、念を押されていることもあって、肉と、唯一好きな野菜であるタマネギの炒め物を詰める。彩りは、ほぼ、ない。白米の横に、地味で茶色い景色が広がっている。

 その、大変地味な次男の弁当を眺めながら、思い出すのは祖母のことだ。

 私は六年間一貫教育の女子校に通っていた。母がどうしても私をその学校に通わせたいと言い張った。当時のわが家の経済状態に、私を私立の女子校に通わせるほど余裕があったとは思えないのだが、母はどうしてもその学校にこだわった。地元の市立中学に通った兄が、当時社会問題となっていた校内暴力の波にスイスイと乗って、立派な不良中学生に成長したことが原因だったのだろう。母は、ことあるごとに、あなただけは地元の学校には通わせない、絶対にあの学校に通うのだと強く言った。

 その女子校はミッションスクールで、想像に難くないとは思うが、私はすっかり浮いていた。紛れ込もうとすればするほど、目立っていた。それが如実に表れたのが、昼休みだった。周りの女子生徒たちは、黒い革の学生カバンから小さな弁当箱と水筒を取り出して、静かに昼食をとる。学校には給食がなく、弁当を持参するか、購買部でパンを買うことになっていた。そしてほとんどの生徒が、母親が丹精込めて作ったであろう美しい弁当を持参していた。私は、当時同居していた祖母が作る弁当を何の気なしに持っていったのだが、初日でそれが大失敗だとはっきりわかった。

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。最新刊は『兄の終い』 。主な著書に『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』など。
最新刊は、エッセイ集『村井さんちの生活』(新潮社)と、翻訳書『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』(双葉社)。

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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