よみタイ

ただ焼くだけで、主役級の存在感。家庭料理における素敵なステーキ

 ステーキと言えば、妙に印象に残っている商品があります。日本ハムの「あらびきグルメイドステーキ」という商品、皆様はご存知でしょうか。調べてみたら1991年の発売で、今もスーパーの一角にひっそりと置かれているのを見ますから、なかなかのロングセラーですね。ご存知ない方のために簡単に説明すると、ボロニアソーセージの周りに豚バラ肉を巻いた食肉加工品で、ステーキと言ってもハムステーキに近いものです。
 印象に残っているのは、発売当初のCM。「ステーキなので父が焼く」という、少し不思議なキャッチコピーが耳に残っています。このコピーの意図としては、ややもするとハムの一種としか見られかねないこの商品を、あくまでメインディッシュとしての本格的な肉料理として位置付けたかったのではないかと思います。唐突に「父」が登場するのは、イギリスのローストビーフ、アメリカのバーベキュー、そして日本のすき焼きのような、慣例的に男性が担当するハレの日の肉料理のイメージを重ね合わせる意図、そして同時に、料理スキルの無いお父さんでも簡単に作れるという、いわばダブルミーニング的な意味があったのではないでしょうか。父権主義的な過去の時代と、後に来る男性も家事に参画することが求められ始めた時代の、過渡期を繋ぐコピーでもあったのかもしれません。
 この商品、少なくともビーフステーキよりは遥かに安く、簡単でご飯が進むという点に関しては完璧とも言えるものだと思います。しかし残念ながら、晩ごはんの定番として広く定着することはなかったようです。その代わり、朝食やお弁当のおかずの定番として定着した、という分析はありました。また現在のメインユーザーは50代以上の二人世帯とのことで、当初の狙いとは少し違う形で愛され続けているみたいですね。

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 結局、家庭料理として最も定着しているのはチキンステーキ、次いでポークステーキということになるでしょう。価格差を如実に反映した、ある意味順当な状況とは言えそうです。僕のレシピでも数年前に、「30分チキン」と称した、ほったらかしでパリッとジューシーに焼くチキンステーキがバズりました。実は投稿時点では「ご飯のおかず」にすることは全く想定していなかったのですが、その後拡散が進む中で、ソースのベースを醤油にするなどのアレンジが様々に工夫されていきました。かくしてそれは結果的に「安い・簡単・ご飯が進む」という「家庭料理の三要件」を見事に満たすものとなったのです。
 ポークステーキに関しては、個人的に「四日市トンテキ」を推したいところです。これはソース・醤油・ニンニクのタレで仕上げる料理なのですが、失敗することはまず無く、なおかつ抜群にご飯が進みます。今はまだまだマイナーな料理かもしれませんが、何かきっかけがあれば大ブレイクするのでは?と思っています。とは言うものの、そう思い始めてから早や15年以上が経ちました。今のところ残念ながらこれといってブレイクの気配はありません。
 家庭料理として、何が定着して何がしないか。そこにはある程度の法則性はありながら、同時にあまりにも不確定要素が多いということでもあるのでしょう。

イラスト:森優
イラスト:森優

次回は7/24(金)公開予定です。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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