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『うまれることば、しぬことば』出版記念対談! 武田砂鉄×酒井順子「言葉は常に、栄枯盛衰」

多くのメディアで取り上げられている話題作、酒井順子さんの最新刊『うまれることば、しぬことば』。なかでもいち早く本作を紹介したのは、武田砂鉄さんがパーソナリティーを務めるラジオ番組「アシタノカレッジ」でした。かねてより、互いの著作のほとんどに目を通すという二人。言葉に対して鋭い視点と観察眼の持ち主である武田さんをお迎えし、酒井順子さんと、「今の日本語」について語っていただきました。

(撮影/冨永智子 聞き手・構成/松岡理恵 編集部)
武田砂鉄さんと酒井順子さん。「久しぶりに会った親戚感がありますね」とは、この写真を見た武田さんの言葉。
武田砂鉄さんと酒井順子さん。「久しぶりに会った親戚感がありますね」とは、この写真を見た武田さんの言葉。

準備をしないと前に進まないことを知らしめた「○○活」

武田 酒井さんは、『うまれることば、しぬことば』の中で、<「活動ブーム」が来る前に二十代、三十代という人生の生々しい時期を過ごした私は、今までたいした活動履歴を持っていません>と書いています。婚活、就活という言葉が存在しなかった時代は、<特別な「活動」などせず、流れるままに人生を歩んでいった人が多かったのではないでしょうか>と。
たとえば、最近よく「推し活」という言葉を聞きます。何かがとにかく好きであるという状態ってずっとあったわけですが、それを「活動」として強調すると、新しく感じられます。「○○活」が流行ると、その○○がクローズアップされますが、それをやらない人はその「活」をしていない、ということになり、「婚活していない」「就活しない」、それはマズいのでは、となる。実は分断を生む言葉でもありますね。

酒井 「活動をしない理由」をいちいち説明しなくてはならなくなってきました。「活動」の流行によって、行動しやすくなった人がいる一方、水面下でひっそりと何かを進めていきたい人には、つらい時代です。しかし「活動」という言葉の効果としてあったのは、「パパ活」のような泡沫系の「活動」は別にして、「就活」による就職にせよ、「終活」による死にせよ、「婚活」による結婚にせよ、多くの人が経験していることというのは、実はラクにできることではなく、必死に努力しないとできないことなのだ、という事実を知らしめたことではないでしょうか。

武田 そうですね。人生を閉じる「終活」も、しなければならないものになってきています。

酒井 自分で自分の後始末をするということは、子供にとってはありがたいけれど、終活ブームをプレッシャーとして捉えている親世代も。

武田 いつの間にか、それぞれが前もって死の迎え方をじっくり考えなければいけない、ということになっています。でも、目の前をなんとか乗り越えるのに精一杯な社会で、必ずそれをやらなくてはいけないというのは……

酒井 死を突きつけられている感じというか。自分の子供に、「お母さんもそろそろ終活したら」などと言われて、「死ぬのを待たれている気がする」と言っていた高齢女性もいました。

年賀状の「御飯行きましょう」の一文は危険!?

武田 酒井さんは様々な編集者と仕事をされてきたと思いますが、「今度何か面白いことをしましょう!」と適当に言ってくる人とは仕事できますか。自分も編集者のときに散々言った記憶があるんですが、面白いことをできた確率がものすごく低いです。改めて、あれって何なんだろう、と思います。あと、「また御一緒しましょう」と言ったときの御一緒率の低さも同様です。

酒井 「何か面白いこと」‥‥って、面白くなさそう! 「面白いこと」の曖昧さが怖いですね。私の場合、一番実現の確率が低いのは、年賀状に書いてある「近いうちに御飯食べましょう」ですかね。

武田 あれは「結局、今年も御飯に行かないと思います」という宣言じゃないかとさえ思っています。年賀状の一言って、非常に危険ですよね。だって、年賀状を書くほうは半日ぐらいで一気に「御飯行きましょう」「新刊面白かったです」などと、すさまじいスピードで書きまくっているのに、受け取るほうは年明けの暇な時間にじっくり読んでしまう。温度感の違いがあります。

酒井 「御飯行こう」なんて書かれてあると、ちょっと楽しみにしていたりする自分もいて。でも、やっぱり六月になっても誘いはない。

武田 一月の年賀状を六月に確認する!六月まで待つ!

酒井 その一瞬は、なんだかうれしくて「あ、ありがとうございます」みたいな気持ちになります。年賀状に「何か面白いことしたいですね」って書いてあることもありますよね。

武田 あれ、どう受け止めればいいんですか。

酒井 具体的な企画はまだ無いけれど砂鉄さんの順番待ち番号は欲しい、みたいな感覚で書かれているんじゃないですかね。しかし「面白いこと」という曖昧さが、ちょっとした逃げの姿勢も感じさせる。

武田 面白いことを発見するのって大変じゃないですか。編集者も大変だし、書くほうも大変です。仕事が始まっても、これが面白いのかどうか、ずっと不安です。なので、軽い感じで「面白いことしましょうよ」と言うってことは、「面白いこと」発見・継続の大変さが勝手に薄められた感じがして嫌だ、というのはあるかもしれません。まぁ、相手との関係性によりますが。

酒井 「仕事御一緒しましょう」とはっきり言っていただける方がスッキリします。「面白いこと」って、ゲームかもしれないんだし。

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武田砂鉄

たけだ・さてつ
1982年生まれ。出版社勤務を経て、2014年よりライターに。2015年『紋切型社会』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。他の著書に『日本の気配』『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』『べつに怒ってない』『今日拾った言葉たち』などがある。週刊誌、文芸誌、ファッション誌、ウェブメディアなど、さまざまな媒体で連載を執筆するほか、近年はラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げている。

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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