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“一重スターの宝庫” 韓国芸能界と日本の二重信仰 第4回 一重まぶたの扱い方

 そんな時に、韓国における「一重美」感覚を知って、私は「やられた」と思ったのでした。かの国の人々は、「一重の方が世界ウケするだろう」という感覚でのみ、一重スターを送り出したわけではないでしょう。一重まぶたの人を本当に美しいと思う感覚自体、韓国の人々は日本人よりも発達しているのではないか。
 かなりの割合の日本人が生まれながらに持っている一重まぶたを「美しい」と思うことができるのであれば、我々も糊などの姑息な手段を使用せずに済む。そして韓国の一重スター達が一重力で世界進出を果たしたのだとすれば、我々もニセ二重をせっせと作っている場合ではないのではないの、と思います。
 日本でもかつて、糸のように細い目が美しいとされた時代があったようです。かつて、と言ってもそれは千年前の平安時代であるわけですが、あの時代の絵を見てみると、女性達はほぼ、糸目。彫りが深くて目が大きいコーカソイド系の顔を見たことがないかの時代の人々は、自分達の顔立ちの中に、美を見出しました。
 対して今時のアニメにおける女性達の顔に描かれる目は、平安女性の目の百倍くらいの大きさです。東アジアの端っこに生きる日本の民は、外国の人々と接するようになるにつれて、
「自分達の目、細すぎる……」
 と思うようになったのか。それとも戦争に負けたことによって、コーカソイド顔への憧れが噴出したのか。いずれにしても大きな目への憧れが強すぎるあまり、アニメや漫画に登場する少女の中に、一重顔を見ることはできないのでした。
 韓国の一重戦略を見るにつけ、日本人もそろそろ、少しずつ二重信仰を手放してもいいんじゃないの、と私は思います。いくら日の丸や「君が代」を国民に強制したとて、自分たちの目の形状ひとつ愛せないようでいては、愛国心など育つはずもないのではないか。
 それはたかだか、まぶたの皮一枚の問題ではあるのです。が、生まれたままのまぶたを愛することができたなら、私達の自信はかなり深まることでしょう。
 このような現状を変える可能性を持つのは、ズバリ皇室の方々ではないかと、私は思います。日本を象徴するかのような切れ長一重まぶたを持つ方が多い、皇族。しかし男性皇族方を見ていると、上皇陛下と美智子さまの結婚以降、天皇陛下と雅子さまにしても、秋篠宮さまと紀子さまにしても、「一重の男性が、二重の女性を娶る」というケースばかりです。
 天皇を中心とした皇族が、「一重の男性が、二重の女性を娶る」というパターンを繰り返すことによって、国民は「プリンセスになるのは、やはり二重の女性」との思いを抱きはしまいか、と私は危惧します。
 眞子さんがぱっちりお目々の小室さんと結婚したことを思い浮かべると、もしかすると皇族の方々は単に「自分とは違うまぶた」に惹かれがちなのかもしれません。しかしこの先、日本に「一重美」の感覚を根づかせるには「一重のプリンセス」の登場がまたれるわけで、そうなると期待がかかるのは、将来の天皇になられるであろう悠仁さま。
 ディズニープリンセスの世界でも、非白人系の姫が多く登場している今、日本のプリンセスもそろそろ、ぱっちり目の人ばかりが選ばれなくてもいいのではないでしょうか。ほれぼれするほどの切れ長一重まぶたのプリンセスが登場した時、日本は様々な意味で、新たな時代に入ることができるのではないかと、私は思います。

*次回は11月4日(金)公開予定です。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』など多数。

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